実務において、公共事業で用地を買収した後、「地目変更(表示の登記)」と「所有権移転(権利の登記)」をセットで行う場面は頻繁にあります。
「どうせ両方やるんだから、連件(セット)で出して一回で済ませたい」
その気持ちは痛いほど分かりますが、これをやると法務局を困らせ、最悪の場合は取り下げになるリスクがあります。
なぜ「表示」と「権利」の連件は嫌がられるのか? 登記簿の記載例を見ながら、そのタイムラグの正体を解説します。
結論:急がば回れ。「別々に」処理しよう
結論から言うと、「地目変更登記」と「所有権移転登記」を連件で嘱託するのは避けるべきです。
- まず「地目変更」を出す。
- 完了証が戻ってきたら、「所有権移転」を出す。
このツー・ステップが最も安全で確実な方法です。
理想の形:登記簿はこうなる
まず、手順を分けて処理した場合の、きれいな登記簿(全部事項証明書)の記載例を見てみましょう。
【登記記録の例(表題部・甲区)】

<解説>
- 10月11日: まず地目を「畑」から「原野」に変えました。(地目変更完了)
- 10月20日: 原野になった状態で、市への所有権移転登記を嘱託しました。
このように日付がズレていれば、登記の前後関係(原野になってから嘱託書が提出された)が明確であり、何の問題もありません。
解説:なぜ連件だとマズいのか?
もし、これを横着して「10月20日に連件(同時)」で出したらどうなるでしょうか?
ここに「実地調査のタイムラグ」という壁が立ちはだかります。
1. 表示登記(地目変更)の特殊性
「権利の登記(売買など)」は、書類審査だけで終わります。
しかし、「表示の登記(地目変更)」は、登記官による「現地調査」が原則必要です。
- 10月20日: 嘱託書を提出。
- 10月25日: 表示登記官が現地を見に行く(本当に原野になったか確認)。
- 10月26日: 確認できたので地目変更の登記を実行。
2. タイムトラベルの矛盾
連件で出した場合、後件の「所有権移転(売買)」は、「原野を売買した」という契約内容になっています。
しかし、10月20日(提出日)の時点では、登記官はまだ現地を見ていません。
登記官の心理としてはこうなります。
「今日(20日)出された所有権移転の嘱託書には『原野を売った』と書いてある。
でも、地目変更の調査(25日予定)が終わるまでは、この土地はまだ登記簿上『畑』だ。
まだ畑なのに、原野として売買した登記を入れるのは論理的におかしい!」
このように、「申請時点での現況(未確定)」と「契約内容(確定)」にズレが生じてしまうため、実務上嫌がられるのです。
例外:できる場合もあるが……
絶対に不可能かと言えば、そうではありません。
事前に表示登記の部門と綿密に打ち合わせをし、以下のような確約が取れれば可能です。
- 「提出日(20日)の午前中に地目変更を出し、即時に現地調査(または調査省略)をして、午後一で完了させる。その直後に権利の登記を流す」
しかし、これは登記官に多大な負担とプレッシャーをかける行為です。
大量の案件を抱える法務局に対して、そこまでの特別扱いを求めるのは、用地担当者としてあまりスマートではありません。
まとめ:急ぐ案件ほど慎重に
- 地目変更 = 「事実」を確認する登記(時間がかかる)。
- 所有権移転 = 「権利」を動かす登記(書類が揃えば即日効力)。
性質の違う登記を無理に混ぜると事故のもとです。
「地目変更」→「完了待ち」→「移転登記」。
この基本フローを守ることが、結果として一番早い解決策になります。
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