全5回の「一括申請シリーズ」も今回でラストです。お疲れ様でした。
最後は、用地買収のスタート地点であり、最も頻繁に行う「登記名義人表示変更登記(いわゆる名変登記)」についてです。
「名変なんて、住民票通りに変えるだけでしょ?」
そう思っている時こそ、足元をすくわれます。
実は、名変登記は登記申請の「1件目」に出すことがほとんど。ここでミスをすると、その後に続く「所有権移転」や「抵当権抹消」がすべて連鎖的に「取下げ(やり直し)」になってしまいます。
最終回の今回は、名変の一括申請ルールを確認しつつ、実務者として身につけたい「根拠の探し方」についてお話しします。
1. 結論:氏名変更と住所移転は「まとめてOK」
まず、実務上の結論から入ります。
例えば、地権者Aさんが以下のような履歴を持っていたとします。
- 令和7年4月1日: 結婚して氏名変更
- 令和7年5月1日: 引っ越しして住所移転
この場合、原因や日付がバラバラでも、申請書1枚で一括して変更登記が可能です。
根拠となる条文
これを可能にしているのが、「不動産登記規則 第35条第8号」です。
【不動産登記規則 第35条第8号】
同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産について申請する二以上の登記が、いずれも同一の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記であるとき。
2. なぜ「書籍(前例)」も確認すべきなのか?
「じゃあ、名変関係は全部まとめていいんですね!」
……と、早合点するのは危険です。ここで「実務の落とし穴」があります。
条文だけ読むと「氏名等の変更または更正」はすべてまとめられそうに見えますが、実は「登記の原因」が違うと一括申請できないという前例(登記研究)が存在します。
一括申請できないひとつの例
- 甲土地: Aさん、住所「変更」(引っ越しなど)
- 乙土地: Aさん、住所「更正」(最初から間違って登記されていた場合の訂正)
この事例では「登記原因が異なる」となり、一括申請が認められません。
【根拠:登記研究 第262号】
現場での教訓
条文は大枠のルールですが、細かい運用はこうした「質疑応答(登記研究)」で決まっています。
もし自己判断でまとめて申請し、法務局から「これ、性質が違うので別々に出してください」と言われたら、一連の嘱託登記がすべてストップしてしまいます。
「迷ったときは、必ず専門書籍を確認する」
これが、ミスなく定時で帰るための鉄則です。
冒頭でも触れましたが、再度書きます。
『名変登記は登記申請の「1件目」に出すことがほとんど。ここでミスをすると、その後に続く「所有権移転」や「抵当権抹消」がすべて連鎖的に「取下げ(やり直し)」になってしまいます。』
3. シリーズ全体のまとめ(思考整理図)
これまで5回にわたり「具体的な事例」ベースで解説してきましたが、頭の中が整理できてきたでしょうか?
最後に、このシリーズのネタバラシをします。 実は、今回解説してきた「まとめていい・ダメ」のルールは、バラバラに存在しているわけではなく、条文の構造(体系)によってきれいに整理されています。
司法書士などの専門家は、個別の事例を暗記しているのではなく、この「条文の地図」を頭に入れているから、どんなイレギュラーな案件でも即答できるのです。
もし余裕があれば、以下の表を眺めてみてください。これが今回のシリーズの「裏側の骨組み」です。
【一括申請の構造(条文の地図)〜同一管轄内が前提】
- Ⅰ. 客体(不動産)が複数の場合
- (イ) 令4条但書(基本形)
- 目的・原因日付・当事者が同一ならOK(第2回)
- (ロ) 規則35条10号(例外)
- 抵当権抹消(共同担保)なら所有者がバラバラでもOK(第3回)
- (イ) 令4条但書(基本形)
- Ⅱ. 客体(不動産)が1つ、主体の複数の場合
- (ハ) 規則35条9号
- 共有者全員からの移転ならOK(第4回)
- (ハ) 規則35条9号
- Ⅲ. 客体(不動産)が1つ、登記事項が複数の場合
- (ニ)例 甲土地に設定している根抵当権の範囲と債務者を同一日で変更した
- 上記例は、嘱託登記において出会わない事例なので、説明は割愛します。
- (ホ) 規則35条8号(名変の例外)
- 住所・氏名の変更ならまとめてOK(第5回)
- (ニ)例 甲土地に設定している根抵当権の範囲と債務者を同一日で変更した
【編集後記】なぜ「条文」の話をしたのか
最後に、あなたに一つだけ伝えたいことがあります。
役所の仕事をしていると、どうしても「前任者の資料(前例)」が正解だと思い込んでしまいがちです。 何か分からないことがあった時、「去年のファイルはどうなってる?」「3年前はどう処理した?」と、過去の資料ばかりひっくり返して、あーでもないこーでもないと議論していませんか?
ですが、前任者の資料が常に正しいとは限りません。たまたま法務局が見逃しただけのミスが、代々引き継がれていることもあります。 そんな時、「条文にはこう書いてあります」と言える職員は強いです。 条文こそが、すべての業務の「始まり」であり、法務局や上司を説得するための最強の「根拠」だからです。
今回紹介した条文(令4条や規則35条)を、一度でいいので、六法全書やネット検索で「原文」を見てみてください。 「あ、ブログに書いてあったのは、このことか!」と繋がった瞬間、あなたの登記スキルは一段階レベルアップしているはずです。
これで「一括申請」シリーズは完結です。 迷った時は過去のファイルではなく、条文(ルール)に戻る(名変登記は書籍も見る)。 その姿勢で、自信を持って業務を進めてください!応援しています。
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