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【連載第1回】なぜ沖縄に「存在しないはず」の財産区名義があるのか?

※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。

目次

〜戦後の混乱と「昭和56年の決断」が生んだ2つの登記名義〜

みなさん、こんにちは。

日々の用地買収や登記業務、本当にお疲れ様です。

沖縄の現場で登記簿をめくっていると、ふと「登記できないはずの名称」に出くわして、思考が停止したことはありませんか?

一つは、「〇〇財産区」。

もう一つは、「字(あざ)〇〇」。

地方自治法や不動産登記法を勉強された方ならご存じの通り、沖縄には「財産区」は設立されていませんし、「字(権利能力なき社団)」は原則として登記名義人になれません。

それなのに、登記簿には堂々とこれらの名称が刻まれています。

「なぜ、実在しないはずの団体や、登記できないはずの団体が名義人になっているのか?」

今回は、この「沖縄のミステリー」が生まれた背景について、「戦後の混乱期」と「昭和50年代の対策期」という2つの歴史的視点から考察してみましょう。

結論:2つの名義は「生まれた時代」と「理由」が違う可能性

結論から言うと、この2つの不思議な名義は、それぞれ異なる歴史的背景によって生まれたと考えられます。

  1. 「字(あざ)〇〇」名義
    • 発生時期: 戦後復興期(昭和20年代後半〜)
    • 理由: 戦後の混乱期に行われた権利認定(土地所有権証明書事業など)において、実態に合わせて「字」として記録されたものが、そのまま登記簿に移記された可能性があります。
  2. 「〇〇財産区」名義
    • 発生時期: 私人名義解消事業期(昭和50年代〜)
    • 理由: 戦前からの「私人名義(個人名義)」を解消するための「苦肉の策(昭和56年法務局回答)」として、便宜的に用いられた経緯があります。

1. 戦後の混乱が生んだ?「字」名義の謎

まず、「字〇〇」という名義についてです。

沖縄戦により、沖縄の登記簿の多くは焼失してしまいました。そこで、1951年(昭和26年)頃から、住民の申告や聞き取りによって土地の所有者を確定させる「土地所有権証明書交付事業」などが行われました。

確たる証拠があるわけではありませんが、この時期にムラ(集落)が共同で利用していた土地について、実態に合わせて「所有者:字〇〇」や「字〇〇 代表者 誰それ」として権利が認定されたケースがあったと考えられます。

本来、権利能力のない「字」は登記できませんが、戦後復興の混乱期においては、厳密な法的要件よりも「誰のものか」という実態記録が優先され、それが後の登記所開設時にそのまま登記簿(表題部)へと移記された──という流れが推測されます。

つまり、「字」名義は、「戦後の混乱の中で、当時の集落(ムラ)の存在を、ありのまま記録しようとした痕跡」と言えるかもしれません。

2. 現場を追い詰めた「私人名義」の恐怖

一方、「財産区」名義については、もう少しはっきりとした背景が見えてきます。

時計の針を、昭和50年代に戻してみましょう。

当時、沖縄の市町村や法務局は、ある深刻な問題に頭を抱えていました。

それは、公民館敷地などが「区長や有力者の個人名義(私人名義)」のまま放置されているケースが山ほどあったことです。

これを放置すれば、相続が重なり、権利関係が泥沼化します。

「なんとかして、この個人名義を公的な名義に移し替えたい!」

これが、当時の行政と法務局の共通した悲願でした。

3. 「財産区」というウルトラC(昭和56年回答)

そこで活用されたのが、本土の登記実務にあった「みなし財産区」というロジックです。
※注意:みなし財産区という用語は著者の造語です。

これに関しては、以下の「実務家の武器」となる重要な質疑応答が存在します。

【武器となる根拠】実態重視の解釈(登記研究337号)

登記研究337号 70頁 質疑応答

(問) 実態がいわゆる財産区であり、表題部の所有者欄に「大字何々」と記載されている土地の所有権保存登記をする場合には、登記名義人の表示を「大字何々」とすることができると思いますが、「何々財産区」とすべきであるとの意見もあるので、お尋ねします。

(答) 当該財産区の名称が「大字何々」であれば御意見のとおりと考えます。

つまり、本土では「登記簿上の名前が『字(大字)』のままでも、実態が財産区(公的なもの)であれば、その登記能力を認める」という運用がありました。

沖縄への適用(昭和56年回答)

この「実態重視」のロジックを、さらに一歩進めて応用したのが、昭和56年9月17日の那覇地方法務局長回答(登第346号)と思われます。

ここでは、以下のストーリーが立証できれば、「私人名義」から「財産区名義」への移転を認めるとしました。

  1. 過去の真実: 元々はムラの一部が所有していた(旧市町村制施行前からの共有)。
  2. 実務上の処理: ならば、実質的に「財産区」と同様とみなし、便宜上「〇〇財産区」という器(うつわ)を使って登記を受け付けよう。

こうして、本来沖縄にはないはずの「財産区」という名称が、「私人名義解消のための解決策」として登記簿に登場することになったのではないでしょうか。

4. 現代の私たちに残された課題

「戦後の混乱」が生んだ可能性がある「字」名義。

「昭和の解決策」として意図的に作られた「財産区」名義。

どちらも、先人たちが「なんとかして権利を守ろう」とした知恵と努力の結晶ですが、現代の用地担当者にとっては「ねじれ」の原因となっているのも事実です。

  • 登記簿: 「〇〇財産区」や「字〇〇」
  • 法律: 「沖縄に財産区なし」「字は登記能力なし」
  • 現場の悩み: 「じゃあ、誰と契約すればいいの?」

次回は、この複雑な権利主体を整理し、実務でどう攻略するかを判断するための「4つのカテゴリー分類」について解説します。

参考資料

1. 名称変更の根拠(登記研究337号 70頁)

(問) 実態がいわゆる財産区であり、表題部の所有者欄に「大字何々」と記載されている土地の所有権保存登記をする場合には、登記名義人の表示を「大字何々」とすることができると思いますが、「何々財産区」とすべきであるとの意見もあるので、お尋ねします。

(答) 当該財産区の名称が「大字何々」であれば御意見のとおりと考えます。

2. 保存登記の嘱託根拠(登記研究192号 71頁)

(答) 実体が地方自治法に規定されている財産区(中略)の所有である場合には、その財産管理者たる市町村長の嘱託によって所有権の保存登記ができます(中略)。

3. 沖縄における運用(昭和56年9月17日 登第346号 那覇地方法務局長回答)

宜総管第97号
昭和56年9月7日

 那覇地方法務局長
  松江国雄 殿

宜野湾村長 安次富盛信

 字有財産の登記について(照会)

 本市内に存する字有財産はほとんど「私人名義」で保存登記されているため、その名義人に精神的、経済的負担をかけているばかりでなく、権利関係等複雑な問題が惹起しており、今後の財産管理上憂慮されます。
 つきましては、字有財産の適正管理を図るため、本職の嘱託により真正なる名義人である「字」に所有権の移転登記を検討しておりますが、それが可能かどうか御教示願います。

 

登第346号
昭和56年9月17日
那覇地方法務局長 松江 國雄

 宜野湾村長 安次富 盛信 殿

   字有財産の登記について(回答)
 本月7日付け宜総管第97号をもって照会のあった標記の件については、左記のとおり回答します。


一 私人名義に登記されたのが旧市町村制(1948年7月21日米軍政府令第26号)施行前である場合


1 私人名義に登記された当時から右の旧市町村制施行の際まで当該不動産を宜野湾村の一部が所有していたものであれば、「真正なる登記名義の回復」を登記原因として、財産区名義にその代表者から移転登記を嘱託することができる。
2 私人名義に登記された当時から右の旧市町村制施行の際まで当該不動産を宜野湾村の一部が所有していたもので、かつ、その所有者である宜野湾村の一部が旧市町村制第146条第1項の規定によって財産区となり、その者が引き継いで今日まで当該不動産を所有している場合も、前号に同じ。


二 私人名義に登記されたのが第1項にいう旧市町村制施行後である場合


1 私人名義に登記された当時、当該不動産を右の旧市町村制第146条第1項に規定されていた財産区が所有していたものであれば、前項第1号に同じ。
2 私人名義に登記された当時から今日まで当該不動産を前号の財産区が所有しているものについても、前号に同じ。

登第347号
昭和56年9月17日
那覇地方法務局登記課長

 支局長
 出張所長 御中

   字有財産の登記について(依命通知)


 標記の件について、別紙甲号のとおり宜野湾村長から局長あて照会があり、別紙乙号のとおり局長から回答されましたが、その登記及び従前字名義で登記されているものについては、左記により取り扱うのを相当と考えますので、この旨登記官に周知願います。

       記


一 登記嘱託書中、権利者欄に記載すべき財産区の名称は「◯◯財産区」とすること。

二 登記嘱託書中、嘱託者の資格は「嘱託年月日」の次に
嘱託者 〇〇財産区代表者
    〇〇市町村長 何某
の振合いにより記載されていること。

三 登記簿に記載すべき所有者の表示は、「◯◯財産区」とすること。

四 旧市町村制(1948年7月21日米軍政府指令第26号)施行前に字名義で登記されているもので、その実体が右の旧市町村制第146条第1項に規定されていた財産区の所有であったものについて所有権移転登記嘱託等を受理するに当たっては、所有権登記名義人の表示を◯◯財産区に変更登記の嘱託がなされなければならないが、その登記原因及びその日附は、「昭和23年8月15日旧市町村制(昭和23年米軍政府指令第26号)の施行による名称変更」とすること。

五 旧市町村制施行後に字名義で登記されているもので、その実体が右の旧市町村制第146条第1項に規定されていた財産区の所有であったものについて所有権移転登記嘱託等を受理するに当たっては、所有権登記名義人の表示を◯◯財産区に更正登記の嘱託がされなければならないが、その登記原因は錯誤とすること。

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