※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。
〜「直せない・消せない」を解決する第3のルート〜
用地担当のみなさん、こんにちは。
前回は、権利部(保存登記)がある場合、「更正登記(書き換え)」は『同一性の壁』に阻まれて門前払いされること、そして「抹消登記」は『亡霊(共有者)』の復活を招くため、絶対に選んではいけないことをお話ししました。
「直せないし、消せない。じゃあどうすればいいんだ!」
現場からは悲鳴が上がりそうですが、安心してください。
実務家には、こうした八方塞がりの状況を打破するための「第3のルート」が用意されています。
それが、今回解説する「真正な登記名義の回復」です。
1. 「真正な登記名義の回復」とは何か?
この聞き慣れない言葉、登記実務の世界では「困ったときの切り札」として知られています。
その仕組みを「見た目」と「中身」で分解してみましょう。
仕組み(見た目と中身)
- 見た目(形式):
- 「Aさん(現在の名義)」から「Bさん(真の所有者)」への所有権移転登記の形をとります。
- 中身(実質):
- 「売買」や「贈与」があったわけではありません。
- 「現在の名義人(A)は無効(間違い)で、本当の所有者はBなんだ。だから名義をあるべき場所(B)に戻すね」という手続きです。
2. なぜこれが「沖縄の救世主」になるのか?
この手法の最大のメリットは、前回解説した「更正登記の弱点(同一性の壁)」を無効化できる点にあります。
VS 登記官(法務局)シミュレーション
- 更正登記(書き換え)の場合:
- 登記官: 「『財産区(公)』と『自治会(私)』は別人ですよね? 別人への書き換え(同一性なし)は認められません。」
- 結果: × 却下
- 真正な登記名義の回復(移転)の場合:
- 登記官: 「『財産区(A)』から『自治会(B)』への移転ですね? 別人から別人への権利移動なら、同一性は不要です。どうぞ。」
- 結果: ◎ 受理
つまり、形式を「移転(A→B)」にすることで、法務局の審査基準(同一性)をクリアしつつ、実質的には「名義の訂正」を行うことができるのです。
3. 【最大の疑問】なぜ「市長」がハンコを押すのか?
さて、ここからが今回のハイライトです。
実務担当者が最も頭を悩ませるのが、申請書の「登記義務者(渡す人)」の欄です。
義務者: 〇〇財産区(または字〇〇)
代表者: 〇〇市長
ここで、「財産区」と「字」の2つのケースに分けて考えてみましょう。
実は、「字」の場合にこそ、大きな疑問(論理の飛躍)が潜んでいるのです。
ケース①:「〇〇財産区」名義の場合
こちらは話がシンプルです。
「沖縄には財産区が存在しなかった」というのは歴史的な事実(実体)ですが、登記簿上には「財産区」と書かれてしまっています。
地方自治法上、財産区の管理者は「市町村長」と定められています。
- 結論:登記簿に「財産区」とある以上、その代表者として市長がハンコを押すことに、形式上の疑問はありません。
ケース②:「字〇〇」名義の場合(最大の疑問点)
問題はこちらです。
「字(あざ)」の実態は、民間の自治会(権利能力なき社団)です。
本来であれば、字の代表者(自治会長)が手続きをすべきはずです。
「なぜ、民間の『字』の登記を動かすのに、行政の長である『市長』が出てくるの?」
ここに、私案特有の「法的ロジック(読み替え)」が存在します。
「字」を「旧財産区」とみなす
権利部(甲区)に「町村名+字名」で登記されている場合、登記実務ではこれを単なる集落(字)ではなく、「明治時代の町村制に基づく『旧財産区(行政村の一部)』の名残である」と解釈する運用があります (注1)。
- 形式の重視: 権利部に登記されている以上、これは法的な実体(旧財産区)を表しているとみなす。
- 管理権者: 旧財産区であれば、その管理者は現在も「市町村長」である。
- 結論: したがって、名義が「字」であっても、法的には「行政管理下の財産」として扱い、市長が代表してハンコを押す(嘱託する)。
こうすることで、「字の代表者(民間人)が、字(自分たち)へ移転する」という利益相反や同一性の問題を回避し、「市長(行政)から、自治会(民間)へ」というきれいな「他人間移転」の形を整えることができるのです。
※ここがポイント!「矛盾」ではなく「利用」する
「あれ? 財産区はないって言ってたのに、ここで財産区扱いするのは矛盾してない?」と思われるかもしれません。 しかし、これは「実体(中身)」の話ではなく、「手続(形式)」の話です。 登記簿という『形式』が一度作られてしまった以上、その形式上のルール(財産区なら市長が管理)を利用しなければ、扉を開けることができません。 私たちは「財産区であることを認める」のではなく、「間違った登記を解消するために、あえて相手(登記簿)の土俵に乗って、市長の権限を使わせてもらう」のです。

4. 結論:「回復」こそが唯一の正解ルート?!
これまでの議論を整理しましょう。
| 手法 | メリット | デメリット | 判定 |
| ① 更正登記 | 税金が安い | 「同一性がない」として却下されるリスク大。 | × 危険 |
| ② 抹消登記 | 原則通り | 「亡霊(表題部)」が復活し、解決不能になる。 | × 論外 |
| ③ 真正な登記名義の回復 | 同一性不要 亡霊も復活しない | 登録免許税が少し高い(移転扱い)。 理由付け(作文)が難しい。 | ◎ 推奨 |
沖縄の「財産区」や「字(保存登記済み)」の問題を解決するには、市長の協力を得て、この③「真正な登記名義の回復」を行うことこそが、実務上の最適解となりそうです。
次回予告
「よし、手法は決まった!」
「でも……申請書の『登記原因証明情報』には、具体的に何て書けばいいの?」
ここが最大の難所です。
「財産区はなかった」と正直に書きすぎると、「じゃあ前提の保存登記が無効だから抹消しろ」と法務局に言われかねない。
かといって、「財産区から買った」と嘘を書くわけにもいかない。
次回は、このジレンマを解消する「魔法のロジック(昭和56年回答の活用)」を使った、最強の登記原因証明情報の書き方を伝授します。
参考資料
(注1) 「字」名義でも市長が嘱託できる根拠
『変則型登記、権利能力なき社団・認可地縁団体等に関する登記手続と法律実務』P362-363
「真正なる登記名義の回復を登記原因として、A自治会の代表者個人を権利者とする所有権移転登記を甲町長から嘱託するという方法も考えられます。(中略)
明治の大合併時に旧財産区である字Aが設立されていて、現在もA財産区が存在するならば『○○郡甲町字A』は財産区を意味するのであり、当該土地の所有権移転登記について財産区が登記義務者であるとして処理すれば問題ありません」
※この文献は、実体のない(あるいは曖昧な)団体名義の土地について、形式上の管理者として市町村長が登記手続きを行うことの正当性を裏付ける重要な根拠です。
登記研究337号 70頁(名称についての根拠)
- 内容: 実態が財産区であれば、登記名義が「大字〇〇」のままでも財産区として扱ってよい(名称を「〇〇財産区」に変える必要はない)という見解です。
- 使いどころ: 「字名義のままで、なぜ財産区の手続き(市長の関与)ができるのか?」と問われた際、「この先例により、名称が『字』でも財産区としての実質を持つものとして扱えるからです」と回答できます。
登記研究400号 258頁(市長の権限についての根拠)
- 内容: 「旧大字等の名義で登記がなされていれば……『財産を有する市町村の一部』を代表する者である市町村長から登記の嘱託があれば、これを受理すべき」
- 使いどころ: 「なぜ民間の字なのに市長が出てくるのか?」と問われた際、「登記実務上、字名義の土地は『市町村の一部(旧財産区)』とみなされ、市長に嘱託権限があると解釈されているからです」と説明できます。
説明ロジック例: 「本件土地は登記簿上『字〇〇』名義ですが、登記研究400号の見解に基づき、形式上は『財産を有する市町村の一部(=旧財産区)』としての名義であると解釈し、その管理者である市長を登記義務者として申請します(実体は民間なので、原因は『回復』とします)。」
登記研究337号P70
「質疑応答」
問 実態がいわゆる財産区であり、表題部の所有者欄に「大字何々」と記載されている土地の所有権保存登記をする場合には、登記名義人の表示を「大字何々」とすることができると思いますが、「何々財産区」とすべきであるとの意見もありますので、お尋ねします。
答 当該財産区の名称が「大字何々」であれば御意見のとおりと考えます。
登記研究400 P258
③その実体が、財産区でも、部落会等有でもないものー当該真正な所有者の所有
[43]では、旧大字名義で保存登記されている土地につき、その実体が部落民の共有であれば、当該大字の所属する市町村長の嘱託により、保存登記を抹消してよいとされている。その理由を考察すれば、旧大字等の名義で登記がなされていれば、当該大字等は権利能力を有するものを表示するものと見ざるを得ず、それは「財産を有する市町村の一部」を表示するものと解すべきこととなる(昭和18年法律第80号の施行の日(同年6月1日)以後の登記名義であれば、部落会等を表示するものとも解されるが。)。したがって、この「財産を有する市町村の一部」を代表する者である市町村長から登記の嘱託があれば、これを受理すべきものとされたのであろう。
右理解であれば、同様にして、仮に、これを「真正な登記名義の回復」等を原因として所有権移転登記をする場合にも、当該市町村長から登記の嘱託をすべきこととなるであろう。
なお、字名義地について、当該字に対して所有権移転登記を命ずる判決による登記の申請があればこれを受理してよいという先例[49]が存するが、これは、民事訴訟においては、民事訴訟法第46条により権利能力を有しないものであっても当事者能力が認められるものであり、裁判所において、当該登記名義人があくまでも権利能力のない字であると認定し、かつ、当該字に対し、判決により、移転登記を命じている以上当該登記申請は、受理すべきとされたのであろう。
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