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【連載第9回】最大の壁「ポツダム政令」の脅威と「二重構造説」

※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。

目次

はじめに

前回までは、すでに保存登記が入っている土地(パターンB)の解決策として「真正な登記名義の回復」を解説しました。

今回からは、もう一つの戦場、「パターンA:表題部のみ(権利部なし)」の攻略法に入ります。

登記簿の表題部所有者欄に「字〇〇」とだけ書いてある土地。

これを「代表者個人(または認可地縁団体)」に書き換える(更正する)必要があります。

しかし、ここで法務局から、これまでとは異質の「歴史的な問い」を突きつけられる可能性があります。

「その『字』って、戦時中の『部落会』のことじゃないですか? だとしたら、ポツダム政令で解散して、もう市の土地になってますよね?」

今回は、この「ポツダム政令」という論理の罠と、それを回避するための理論武装について解説します。

敵を知る:「ポツダム政令」とは何か?

昭和22年5月、連合国軍の命令により「ポツダム政令第15号」が施行されました。

これにより、戦時中に戦争協力機関として機能していた「町内会・部落会」は解散させられ、その財産は(2ヶ月以内に処分されなければ)市町村に帰属(事実上の没収)することになりました。

「字(大字)」名義の土地の実体:「3分類」

「字(大字)」名義の土地の実体は、以下の3つのどれかであると分類します。

  1. 実体が「財産区」であるもの
    • 結論:財産区の所有(沖縄には存在しない)。
  2. 実体が「町内会・部落会(戦時中)」であるもの
    • 結論:ポツダム政令第15号により、市町村に帰属(没収)している。
  3. 実体が「上記以外(自然村)」であるもの
    • 財産区でも、戦時中の部落会でもない、古くからの共同体。
    • 結論:真の所有者(民間)の所有。

我々が陥るピンチ

もし、法務局に「この『字〇〇』は、分類2(戦時中の部落会)ですね」と認定されたらどうなるか?

その瞬間、土地は「市の所有」と確定します。

私たち(自治会)が名義を更正することは不可能になり、買収代金も市に入ります。

したがって、私たちは何としても「分類3(自然村)」であることを証明しなければなりません。

難問:昭和15年の「強制加入」

しかし、ここで歴史の壁が立ちはだかります。

昭和15年の内務省訓令により、当時の日本(沖縄含む)の集落は、ほぼ強制的に「部落会」として組織化されていたと考えられます。

「いや、当時『部落会』だったんでしょ? じゃあポツダム政令で解散・没収されたはずですよ」

この正論に、どう反論するか。

ここで用いるのが、「二重構造説(二つの顔)」というロジックです(注2)。

逆転の理論:「二重構造説」

私たちはこう主張します。

「おっしゃる通り、当時の構成員や代表者は重なっていました。しかし、『組織の目的』と『財産の性質』が全く異なります」

ロジックの組み立て

当時の地域社会には、以下の2つの顔が併存していたと考えます。

  • 顔A:行政末端組織としての「部落会」
    • 昭和15年に作られた。戦争協力が目的。
    • ポツダム政令で解散・没収されたのは、この「顔A」が集めた財産だけです。
  • 顔B:住民自治組織としての「自然村(入会集団)」
    • 明治、いや江戸時代から続いている。祭祀や共有地の管理が目的。
    • 今回の土地(字有地)は、昭和15年より遥か昔から、この「顔B」が総有として管理してきたものです。

結論

「たまたま戦時中に『部落会』という行政の衣(服)を着せられましたが、土地の所有権という『中身』は、一貫してベースにある『自然村(顔B)』にありました。

よって、ポツダム政令の対象となる『部落会の財産』には該当しません!」

このロジックを用いて、「登記簿の名前は『字』だけど、中身はポツダム政令で潰された団体ではなく、生き残った自然村(現在の自治会)なんだ」と主張するのです。

誰が証明するのか?

この難しいロジック(ポツダム政令には該当しないこと)を、誰が証明すればいいのでしょうか?

自治会長が「違います」と言っても、説得力に欠けます。

ここで再び登場するのが、「市町村長」です。

もしポツダム政令が適用されるなら、その土地は「市のもの」になっているはずです。

その当事者である市長が、

「いや、この土地はポツダム政令でウチ(市)に来たものではありません。昔からずっと自治会のものです」

と公的に証明してくれれば、これ以上の証拠はありません。

次回予告

「理論は分かった。二重構造説でポツダム政令をかわすんだな」

「でも、具体的にどんな証明書を作ればいいの?」

次回は、この理論を落とし込んだ「表題部更正のための市長証明書」の具体的な書き方を解説します。

一歩間違えれば「市の土地」にされてしまう危険な書類です。

絶対に外してはいけない「3つのキラーフレーズ」を伝授します。

参考資料

(注1) 登記研究400号の分類

字名義(旧部落名義)の土地の実体について、①旧財産区、②町内会・部落会(ポツダム政令適用)、③それ以外(真正な所有者の所有)の3つに分類し、それぞれの処理方針が示されている。本連載では、沖縄の字有財産を「③」として扱うための論証を行っている。

(注2) 二重構造説(実体は自然村であるとする主張)

李光雄「大字中って何ですか?」 。

「昭和15年の『部落会町内会等整備ニ関スル訓令』により……実際の構成員は各ムラにすでに存在していた自治会のような団体と同じと考えられ、同じ構成員で二つの団体を組織しているようなものであり……その実体をその団体(自然村)が有していたのである、ということは可能だと思われます」

昭和23年10月2日民事甲第3210号回答においても、「実体を町内会、部落会又はその連合会が有しているものである場合」に政令が適用されるとしており、逆に言えば「実体が自然村であれば適用されない」という解釈の余地を残している。

政令第15号2条に関する審査対象について

すなわち、市町村が同政令2条2項の規定によって財産を取得するのは、政令の効果による一方的な取得ですから、その取得の登記についても、当該市区町村長の嘱託によりすることができます。しかしながら、この場合の登記については、同政令においても、不登法116条の特例を認める規定は存しません。また、形式的審査権しか有しない登記官は、申請に係る不動産が、「現に町内会部落会その他の連合会に属する財産」か否か、さらに「本政令施行後2ヶ月以内に処分され」たが、登記していないものか、あるいは、そもそも処分していないものかについて、審査する必要があります。

認可地縁団体・記名共有地をめぐる実務Q&A 認可申請手続と不動産登記法(著者:山野目章夫/監修 後藤浩平/著、日本加除出版株式会社)P244より引用

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