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【連載第10回】【実践】表題部更正のための「市長証明書」書き方マニュアル

※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。

目次

〜「二重構造説」を書面化せよ! 虎の子の証明書〜

用地担当のみなさん、こんにちは。

前回は、表題部のみ(権利部なし)の土地を「字(あざ)」から「代表者」へ書き換える際の最大の敵、「ポツダム政令」を突破するための理論(二重構造説)を解説しました。

今回は、その理論を具体的な「書面」にする作業です。

表題部所有者の更正登記において、法務局が最も重視するのは、「市町村長が発行する更正承諾書(または証明書)」です。

なぜなら、もしその土地が「財産区」や「ポツダム政令該当財産」であれば、本来の所有者は「市」のはずだからです。

その「市」のトップが、

「いや、これは市の土地ではありません。昔からずっと自治会のものです」

と公的に認めること。これこそが、登記官を納得させる最強の証拠となります。

今回は、この「虎の子の証明書」のひな形と、作成上の急所を公開します。

1. 根拠となる「先例」をおさらい

作成の前に、拠り所となる「お守り(法的根拠)」を確認しておきましょう。

以下の先例が、今回のスキームのベースになります(注1)。

昭和48年1月8日 民三第218号回答

「表題部の所有者欄に『大字亀賀総持』と記載されている土地(中略)につき……管轄市町村長の『大字亀賀部落民の所有である旨の証明書』……等の添付がある場合は、当該不動産は、いわゆる人格なき社団に属するものとして代表者個人名義に更正してさしつかえない」

つまり、「市長の証明書さえあれば、更正できる」というお墨付きは既に存在します。

問題は、その証明書に「何を書くか」です。

2. 【実践】更正証明書(市長証明)の記載例

この証明書には、第6回で解説した「3つの否定」に加え、「自然村としての性格」を明記することが、ポツダム政令回避の絶対条件となります。

不動産所有者更正承諾書(兼証明書)

1 不動産の表示

(省略) ※ 登記簿上の所有者:字〇〇

2 証明(承諾)事項

上記の不動産について、現在は表題部所有者が「字〇〇」名義となっておりますが、下記理由により、真実の所有者は「〇〇自治会(代表者 〇〇)」であることを証明(承諾)します。

(1) 財産区の不存在

当市においては、地方自治法第294条に規定する財産区が設立された事実はなく、また、旧町村制下における旧財産区が設定された事実もありません。したがって、当該「字〇〇」という名義は、公法上の財産区を表すものではありません。

(2) ポツダム政令の非適用(二重構造性の確認)

当該不動産は、戦前より当該地域の住民が共同体の総有財産として維持・管理してきたものであり、その管理主体である「字」は、昭和15年内務省訓令に基づいて組織された戦時体制下の「部落会(行政末端組織)」とは性格を異にする、自然村的性格を有する団体です 。

したがって、当該不動産は昭和22年政令第15号(いわゆるポツダム政令)による解散・没収の対象となる「部落会の財産」には該当せず、同政令に基づき当市に所有権が帰属した事実もありません。

(3) 真実の所有者

以上のことから、当該不動産は、古くから地域住民の共同体である「字〇〇(現 〇〇自治会)」が所有し続けている民間の財産であり、当市が権利を主張するものではありません。

よって、表題部所有者の表示を、真実の所有者である「〇〇自治会 代表者 〇〇」に更正することに異議ありません。

令和〇年〇月〇日

那覇地方法務局 御中

〇〇市長  〇〇 〇〇  公印

注(3) 【重要】証明書は「魔法の杖」ではない!

3. 解説:ここが「急所」だ!

この証明書には、法務局の懸念を払拭するための3つのキラーフレーズが埋め込まれています。

① 「公法上の財産区を表すものではない」

まず、「財産区ではない」と明言します。

これにより、「財産区なら議会の議決が必要では?(地方自治法上の制約)」といったツッコミを封じます。

② 「戦時中の組織とは別物である(自然村的性格)」

ここが前回解説した「二重構造説」の実践です。

「名前は字(部落)だけど、中身は行政組織の部落会じゃなくて、自然村(住民自治組織)なんだ」と宣言することで、ポツダム政令による没収を回避します。

ここを曖昧にすると、法務局から「市の土地になるはずでは?」と指摘される隙を与えてしまいます。

③ 「当市が権利を主張するものではありません」

これがトドメです。

もしポツダム政令や財産区に該当するなら、その土地は「市」のものです。

その市が「これは元々ウチの財産(公有財産)として帰属した事実はありません」と公言している。

形式的な権利者になり得る市が「自らの権利を否定」している以上、登記官も「では民間のものとして扱うしかない」と判断しやすくなります。

4. その他の添付書類と「その後」のフロー

市長の証明書のほかに、申請人(自治会側)も以下の書類を準備する必要があります。

書類名内容・ポイント
更正登記申請書申請人:〇〇自治会 代表者 〇〇(または個人名)
上申書自治会長作成。「登記簿上は『字』となっているが、これは昔誤って記載されたもので、ずっと我々が管理してきました」という内容。
規約・総会議事録「本件不動産の名義を、代表者〇〇の名義に更正すること」を決議したもの。
代表者の資格証明書市町村長発行の「認可地縁団体証明書」または「区長証明書」。

5 証明書は「調整の結果」に過ぎない。実は、庁内合意形成が最大の難所

上記ひな形は、あくまで最後の成果物です。

その裏には、財産管理課、法務担当、そして市長を含めた、泥臭い「庁内合意形成(リスク評価)」のプロセスが不可欠です。

この根回しを飛ばして書類だけ作っても、絶対にハンコはもらえません。

6 登記が完了した「その後」

この更正登記が無事に完了すると、表題部所有者が「〇〇自治会 代表者 〇〇」に書き換わります。

ここまで来れば、あとは簡単です。

  1. 所有権保存登記:
    • 更正後の名義人(代表者)が申請します。これで権利の扉が開きます。
  2. (必要な場合)認可地縁団体への移転登記:
    • まだ法人化していない社団として保存登記を入れた場合は、「委任の終了」等を原因として、代表者個人から法人(認可地縁団体)へ移転します。

これで、幽霊のような「字」名義が消え、完全にクリアな「認可地縁団体」名義の土地が誕生します。

次回予告

「よし、これで表題部のみのケースも、権利部があるケースも、すべて解決策が出揃った!」

しかし、最後に一つだけ。

これまで解説してきた手法は、あくまで「沖縄の実情に合わせた、法的にギリギリの綱渡り」でもあります。

本土の事例(日光や姫路)を見ると、もっと別のルート(市への帰属)を選んだケースもあります(注2)。

なぜ、私たちはあえて「茨の道」を行くのか?

次回、最終回。

「日光の事例」などの他県事例と比較しながら、沖縄の担当者が持つべき「実務家としての矜持(プライド)」についてお話しし、本連載を締めくくりたいと思います。


【本記事の根拠資料・注釈】

(注1) 表題部更正の先例(昭和48年回答)

昭和48年1月8日付け民三第218号 民事局第三課長回答

(出典:『認可地縁団体・記名共有地をめぐる実務Q&A』P235, 241 注11 1111)

「表題部の所有者欄に『大字亀賀総持』と記載されている土地……管轄市町村長の『大字亀賀部落民の所有である旨の証明書』……等の添付がある場合は、当該不動産は、いわゆる人格なき社団に属するものとして代表者個人名義に更正してさしつかえない」

※この先例が、市長の証明書による更正登記の直接的な法的根拠となります。

(注2) 他県事例(日光砂防事務所の事例)

『表題部所有者不明土地をポツダム政令に基づき取得した事例』参照

(出典:日光砂防事務所 用地課 )

栃木県日光市の事例では、「大字〇〇共有」名義の土地について、ポツダム政令に基づき市町村へ帰属(没収)させ、市名義で保存登記を行った上で、国が買収するという手法がとられました。この場合、補償金が自治会に入らない(市に入る)という問題が生じます。沖縄の事例ではこれを回避するために、あえて「二重構造説」を用いて民間の土地として構成しています。

(注3)【重要】証明書は「魔法の杖」ではない!

登記官によっては、「市長が『違う』と言えば何でも通るわけではない」と指摘してくることがあります。 市長証明書はあくまで「市は権利を放棄します」という宣言に過ぎません。これに加え、その団体が戦前から独自に活動していたことを示す「客観的な疎明資料」(例:旧土地台帳で明治期から字名義であること、古い規約や活動記録、神社の祭祀承継の事実など)を可能な限り添付し、「二重構造説」を歴史的事実として補強する準備をしておきましょう。

市長証明書のリライト版

【修正のポイント】

  1. 「公有財産台帳との照合」を明記する: 単に「違います」と言うより、「市の台帳を調べた結果、載っていませんでした」と言い切る方が、証拠力が格段に上がります。
  2. 「説明」から「認定」へ: 「~という性格を有する団体です」という説明的な表現を、「~と認める」や「~に該当しないことを確認した」という断定的な表現に強めます。

不動産所有者更正承諾書(兼証明書)

1 不動産の表示 (省略) ※ 登記簿上の所有者:字〇〇

2 証明(承諾)事項
上記の不動産について、現在の表題部所有者「字〇〇」の表示を、真実の所有者である「〇〇自治会(代表者 〇〇)」に更正することについて、当職は異議なく承諾するとともに、下記事項を証明します。

(1) 財産区の不存在に関する事実  
当市において、地方自治法第294条に基づく財産区が設立された事実はなく、旧町村制下における旧財産区が設定された事実も存在しません。  
よって、登記記録上の名義「字〇〇」は、当市の管理に属する公法上の財産区を表示するものではありません。

(2) ポツダム政令の適用に関する事実  
当該不動産について、当市の公有財産台帳および関係書類を調査した結果、昭和22年政令第15号(いわゆるポツダム政令)に基づき、旧町内会・部落会等から当市へ権利が承継または帰属した事実は存在しないことを確認しました。  
当該不動産の実体は、戦前より地域共同体(自然村)の総有財産として維持・管理されてきたものであり、没収対象となる「部落会(行政組織)の財産」には該当しません。

(3) 権利の放棄および真の所有者  
以上の通り、当該不動産について当市が主張すべき権利は一切なく、古くからの地域共同体である「字〇〇(現 〇〇自治会)」が真実の所有者であることを証明します。

令和〇年〇月〇日

那覇地方法務局 御中

〇〇市長  〇〇 〇〇  公印

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