外国語の文書を添付する際、もっとも怖いのが「誤訳(翻訳ミス)」です。
「もし翻訳が間違っていて、そのまま登記されてしまったらどうなるの?」
「登記官は、英語(原文)と日本語(訳文)を照らし合わせてチェックしてくれないの?」
今回は、誤訳があった場合の登記所の扱いと、その責任の所在について解説します。
結論:登記官は直してくれません(申請人のミス扱い)
結論から言うと、翻訳に間違いがあり、それによって誤った登記がなされた場合、それは「申請錯誤(しんせいさくご)」として処理されます。
つまり、「申請人が書き間違えたのと同じ」という扱いになり、登記官の過失ではなく、完全に申請人側の責任となります。
理由:登記官に「翻訳チェック」の義務はない
「原文も添付しているのだから、登記官が『ここ、訳が違いますよ』と指摘すべきでは?」
と思うかもしれません。
しかし、先例(登記研究)では、そこまでの義務を登記官に課していません。
1. 登記官は語学のプロではない
登記官は法律の専門家ですが、翻訳家ではありません。
世界中の言語(英語、中国語、韓国語、スペイン語…)について、原文と訳文を照合して内容を確認させることは、「過重な負担」であるとされています。
2. 性善説(訳文を信じて審査する)
登記官は、添付された「訳文」が正しいものとして審査を行います。
もし訳文に「売買」と書いてあれば、原文が本当は「贈与」であったとしても、売買として登記が通ってしまう恐れがあります。
もちろん、明らかに不自然な場合などは登記官が気付いて補正を指示することもありますが(それが望ましいとされています)、あくまで「気付いてくれたらラッキー」程度に考えるべきです。
根拠となる文献
登記実務のバイブル『登記研究』では、以下のように解説されています。
登記研究254号 P52(要約)
翻訳文とならんで原本を提出させることからすれば、誤訳もチェックすべきだという考え方も成り立ちそうである。
しかし、それは登記官に対して過重な負担を要求するものであって、その誤訳による登記の瑕疵(かし=ミス)は、申請錯誤の問題に準じて処理すべきでないかと考える。
(もちろん、登記官がその誤訳を発見し、補正させることができれば、もとより望ましいことである。)
自由には責任が伴う
前回の記事で、「翻訳者は一般人でOK(資格不要)」という話をしました。
しかし、それは裏を返せば、「誰が訳してもいいけど、間違ったら全部あなたの責任ですよ」ということです。
- 翻訳証明書はいらない(日本語訳が正確である旨の証明書は不要)。
- 翻訳者の資格もいらない。
この「自由さ」は、申請人(および代理人である司法書士)への「信頼」の上に成り立っています。
翻訳ソフト等で簡単に訳せる時代ですが、重要な権利に関わる部分については、やはり細心の注意を払ってチェックする必要があります。
まとめ
- 誤訳があっても、登記官はスルーしてしまう可能性がある。
- 間違って登記されたら「申請人のミス(錯誤)」扱い。
- 後から直すには「錯誤による更正登記」などが必要になり、大変な手間に。
「たかが訳文」と侮らず、一語一句、責任を持って作成しましょう。
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