はじめに:海外在住の地権者への「お願い」が一つ増えました
「地権者さんが海外赴任中だった……契約書はどう送る? サイン証明は?」
用地交渉で相手が海外在住だと判明した瞬間、身構えてしまいますよね。
令和6年4月1日から不動産登記法が改正され、海外に住む人が登記名義人になる(または住所変更する)際、「国内連絡先」の登記が必須になりました 。
用地課の現場としては、「売買契約のついでに貰わなければならない書類」が増えたことを意味します。ここを落とすと「契約はできたのに登記が通らない」という事態になりかねません。
今回は、実務フローに沿って「誰に、何を、どう頼めばいいのか」を整理します。
結論:契約時に「国内に親族がいるか」を必ず確認する
用地買収の実務における正解は以下の2パターンです。
- 国内に協力的な親族がいる場合 その親族を「国内連絡先」になってもらい、「承諾書」を貰う。
- 国内に誰もいない場合 正直に「連絡先なし」として、本人から「上申書」を貰う。
これらは「契約締結のタイミング」で同時に署名・押印を貰うのが鉄則です。後から国際郵便でやり取りするのはリスクが高すぎます。
解説:新制度「国内連絡先事項」のポイント
1. 制度の対象者
新たに所有権の登記名義人となる者が、「国内に住所を有しない場合」に適用されます 。
2. 国内連絡先は「1人」限定
「念のため、実家の両親2人を登録」はできません。
国内連絡先となる者は、「1人に限る」とされています(不動産登記規則156の5一イ)。
※自然人だけでなく、法人(会社)を連絡先にすることも可能です(不動産登記規則156の5一ロ)。
3. 用地担当者が集めるべき「添付情報(書類)」
ここが実務のキモです。パターン別に必要な書類を頭に入れておきましょう。
パターンA:国内の親族等を連絡先にする場合
一番スムーズな形です。
- 申請書への記載:「国内連絡先 〇県〇市〇町〇番地 甲野太郎」 。
- 必要な書類:
- 連絡先の住所証明:甲野太郎さんの住民票など (不動産登記規則156の6①一イ、令和6年3月22日民二551第2部2・3)。
- 承諾書:甲野太郎さんが作成し、実印を押印したもの(印鑑証明書の添付が必要、不動産登記令19②) 。
【アドバイス】
地権者さんには「あくまで法務局からの通知が届く先であって、固定資産税の納税義務や契約責任を負う連帯保証人とは違います」と説明して、親族の方に安心してもらうのがコツです。
パターンB:国内に連絡先がない場合
無理に探させる必要はありません。ない場合は「なし」でOKです。
- 申請書への記載:「国内連絡先 なし」 。
- 必要な書類:
- 上申書:「国内連絡先となる者がない」旨を記載し、本人が署名(または記名押印)したもの 。
【ここが重要!】
上申書に押印した印鑑について印鑑証明書の添付は不要です(令和6年3月22日民二551第2部2・3(4)
まとめ
海外在住者との契約時には、「国内連絡先の承諾書」か「連絡先なしの上申書」を必ず貰う。
「国内連絡先」は新しい制度なので、地権者さんもよく分かっていません。「法律で決まった手続きで、ご親族に迷惑はかかりませんよ」と優しく説明できる準備をしておきましょう。
【番外編】税務課の職員が使う?例外
ここからは用地課の業務というよりは、庁内の税務担当(徴収職員)などが「滞納処分による差押え」を行う場面の話になりますが、知識として知っておくと登記実務への理解が深まります。
相手の協力が得られない時の「細い逃げ道」
税務課などが、海外在住の滞納者の不動産を差し押さえる際、前提として「代位による相続登記」などを行うことがあります。この場合、滞納者(地権者)の協力は得られませんし、上申書なんて貰えるはずがありません。
こういった「登記名義人となる者自身が申請人とならない登記(代位登記や嘱託登記)」の場合に限っては、例外的な取り扱いが認められています。
- 特例内容:「国内連絡先となる者がない」として登記する場合、「上申書」の添付を省略できる 。
- 根拠:令和6年3月22日付 民二第551号通達 第2部第2の3(4)ウ 。
あくまで「相手の意思に関わらず強制的に登記を進める場面(滞納処分など)」でのみ許される「刀を抜いた時のルール」です。 私たち用地課が行う「任意の売買契約」ではこの省略は使えませんので、混同しないように注意しましょう。
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