毎日の業務お疲れ様です。
特に年度末や年度初めの繁忙期に、海外にお住まいの地権者(外国人)とやり取りをするケースが出てくると、ドキッとしますよね。「日本の印鑑証明書がないけれど、代わりに何を貰えばいいの?」「先方が用意してくれた英語の書類、これで法務局を通るの?」といった不安は、新人・ベテラン問わず現場の「あるある」です。
実は、令和6年(2024年)4月1日から、外国在住の外国人が登記名義人となる際の「住所証明情報」のルールが少し厳格化(明確化)されました。
これを知らずに従来通りの案内をしてしまうと、「書類不備で登記が止まる(=用地代金が払えない)」という事態になりかねません。
今回は、この新ルールの要点と実務での対処法を解説します。
はじめに:「前任者のファイルをコピペ」が命取り?現場のヒヤリハット
「外国にお住まいの地権者さんの買収か…。初めてで不安だけど、よし、共有フォルダに数年前に先輩が作った『必要書類案内』が残っていたはず。これを流用して送ってしまおう!」
公務員の仕事において「前例」や「過去の起案」を参考にするのは基本中の基本。ですが、今回ばかりはそれが大きな落とし穴になります。
もし、その古いひな形をそのまま信じて地権者へ案内し、書類が届いた後に法務局へ事前相談に行ったら…… 「現在はこの書類(宣誓供述書)だけでは足りません。パスポートのコピー(原本証明付き)も必須です」 と指摘されて顔面蒼白……。
海外との郵便のやり取りは、往復だけで数週間かかります。ひとつのミスが、事業スケジュールの致命的な遅れ(=用地取得の遅延)に直結します。
令和6年4月1日以降、このルールは明確な「通達」によって運用されています。後手後手に回らないよう、今のうちに正解を押さえておきましょう。
結論:実務上の正解はこれ!
外国居住の外国人が所有権の登記名義人となる場合、住所証明書として「宣誓供述書」を使用するなら、原則として「パスポートの写し」のセット添付が必須となりました。

解説と根拠:なぜ「パスポート」が必要になったのか
実務を行う上で、必ず根拠となる「通達」を手元に控えておいてください。
1. 根拠となる通達
「外国に住所を有する外国人又は法人が所有権の登記名義人となる登記の申請をする場合の住所証明情報の取扱いについて(通達)」
(令和5年12月15日付け 法務省民二第1596号)
この通達は、令和6年4月1日以降の登記申請に適用されています。
2. 法律上の根拠(条文の要約)
そもそも、なぜ住所証明書が必要なのでしょうか?
- 不動産登記令 第別表の29の項など 添付情報欄
- 【要約】: 所有権の登記(保存や移転)をする際は、「住所証明情報」を提供しなければならない。
- 【実務での意味】: 日本国内にいれば「住民票」がこれに当たります。しかし、外国に住む外国人は日本の住民票がありません。そこで「本国の公証人等の証明書」を代わりとして認める運用がなされています。
今回の通達は、この「住民票の代わり」として認める書類の基準を、なりすまし防止や真正性の確保の観点からより具体的に定めたものです。
3. 認められる「3つのパターン」
通達では、以下のA・B・Cのいずれかが必要とされました。
我々が実務で遭遇するのは、圧倒的に「パターンB」です。
| パターン | 内容 | 実務メモ |
| A:政府発行証明書 | 本国(または居住国)の政府・領事が発行した書類(日本の住民票の写し(原本)に相当するもの)。 | 国によっては取得困難。公証人作成のものはここに含まれません。 |
| B:公証人書面+旅券 | 本国等の公証人の宣誓供述書 + パスポートの写し。 | ★最頻出! これまで宣誓供述書だけでOKだったケースでも、パスポート必須に。 |
| C:日本の公証人等 | 「やむを得ない事情」がある場合に限り、日本の公証人の証明書 + パスポートの写し + 上申書。 | あくまで例外的措置。安易に選ばないこと。 |

特に重要な「パターンB(パスポートの写し)」の要件
ただコピーをとれば良いわけではありません。以下の要件を地権者(売主様)に伝えてください。
- 有効期間内であること(作成日または申請日において)。
- 氏名・有効期間・写真のページが含まれていること。
- 【重要】原本証明があること。
- 住所証明書(宣誓供述書)と一体綴じになっていればOK。
- 別々の場合、コピーの余白等に「原本と相違ない」の記載と、本人の署名(サイン)又は記名押印が必要です。
※もしパスポートを持っていない場合は、「所持していない旨の上申書」と「その他の政府発行の身分証(運転免許証等)の写し」で代用する規定もあります
ここに注意!
公証人の「認証文」の中身を確認する
宣誓供述書をもらっても、公証人が「署名の真正(本人のサインに間違いない)」を証明しているだけでは、住所証明情報として不十分な場合があります。
「本人が『私の住所は〇〇です』と宣誓し、その宣誓を公証人が認証している」という形式が必要です。
その他の重要ポイント(訳文の負担を減らすコツ)
全文翻訳は不要!「必要な部分」だけでOK
外国語で作成された書類(宣誓供述書やパスポートの記載事項など)には、必ず「訳文(日本語訳)」を添付しなければなりません。 しかし、英語でびっしりと書かれた権利証書や、細かい約款がついた書類を見て「これを全部翻訳するの…?」と絶望する必要はありません。
実務上、必ずしもその全文を翻訳する必要はなく、以下の「証明に関係する部分」さえ訳してあれば、残りは省略することが認められています。
【翻訳が必須となる箇所】
- 書面の表題(名称。「宣誓供述書」「パスポート」など)
- 氏名、住所
- 発行日、有効期間、有効期限
- 発行機関(どこの国の政府、公証人か)
- 証明する旨の記載(「本人の署名に間違いない」「原本と相違ない」等の認証文言)
- ※証明力の制限に係る事項(「この証明書は〇〇の目的以外には使用できない」等)があれば、そこも訳す必要があります。
【省略のやり方】 翻訳を省略した部分(一般的な約款や、登記に関係のない条項など)については、訳文の中に「(以下、法規等の記載につき翻訳省略)」といった記載をすることで、対応可能です。
まとめ:新ルールを味方につけて、確実な用地取得を
今回の記事では、令和6年4月1日から適用されている「外国居住外国人の住所証明情報」に関する新ルール(令和5年12月15日付け法務省民二第1596号通達)について解説しました。
【記事のポイント振り返り】
- 改正の時期:令和6年4月1日以降の登記申請から適用。
- 実務の正解:宣誓供述書を住所証明とする場合、原則として「パスポートの写し(原本証明付き)」のセット添付が必須。
- 注意点:外国語の書類には必ず日本語の「訳文」を付けること。
制度改正と聞くと「また手続きが増えたのか」と感じるかもしれませんが、裏を返せば「これまで曖昧だった必要書類がクリアになった」とも言えます。
必要な書類が明確であれば、地権者様への説明に迷いがなくなり、結果として書類の不備による手戻り(法務局からの補正指示)を防ぐことができます。
ミスなく無事に登記を完了させられるよう応援しています!
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