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【用地実務】「死後離婚」した妻に相続権はある?地権者の誤解を解く法的根拠

「先輩、ちょっと相談です。用地交渉中のAさんの奥様が、旦那さんが亡くなった後に『姻族関係終了届』を出しているそうなんです。Aさんの弟さんたちが『あいつはもう他人だから、補償金の権利はないし、遺産分割協議にも入れるな』って言ってるんですが……これ、どうなんでしょう?」

現場でよくある悩みですね。いわゆる「死後離婚」という言葉が独り歩きしていて、親族間で揉めるパターンです。

結論から言うと、その弟さんたちの主張は間違いです。

今回は、用地担当者としてこの場面を乗り切るための「法的な武器」を授けます。

目次

結論:相続権は1ミリも減らない

まず、実務上の正解(結論)です。

生存配偶者が「姻族関係終了届」を出しても、相続権は失われません。

したがって、用地買収における所有権移転登記には、その配偶者の実印と印鑑証明書(遺産分割協議書への署名)が絶対に必要です。

弟さんたちには、「奥様を除外して作成した遺産分割協議書では、法務局で登記が通らず、買収代金もお支払いできません」ときっぱり伝えてください。

解説と根拠:なぜ「他人」になっても相続できるのか

相手を説得するには「根拠」が必要です。ここでは、最強の武器となる「登記研究」と「民法」を解説します。

1. 登記実務の決定的な根拠(登記研究)

法務局と戦う(あるいは納得させる)ためのバイブル、質疑応答集からの引用です。これをメモして持っていけば間違いありません。

【登記研究 第406号】

要旨: 生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をし、その旨を市町村長に届け出た場合でも、その者の相続権は失われない。

これがある以上、法務局は「配偶者抜き」の登記を受け付けません。

2. 民法第728条(姻族関係の終了)の本当の意味

では、なぜ「縁を切る」のに相続権が残るのでしょうか。ここで民法の条文を確認しましょう。

民法 第728条(姻族関係の終了)

  1. 姻族関係は、離婚によって終了する。
  2. 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

【実務翻訳:要するにどういうこと?】

この条文で切れるのは、あくまで「姻族(義理の親族)としての付き合い」だけです。

  • 切れるもの: 義理の親や兄弟との親戚関係、同居の義務、そして扶養義務(民法877条)
    • ※民法877条では「直系血族及び兄弟姉妹」に扶養義務があるとされますが、特別な事情がある場合、家庭裁判所によって「3親等内の親族(義理の親など)」にも義務が課されることがあります。この「介護や金銭的援助の義務」を将来にわたって断ち切るのが、この届出の主目的です。
  • 切れないもの: 配偶者としての地位(相続権)

相続権は「死亡した瞬間」に確定します。姻族関係終了届は「死亡した後」に出すものです。

「後出しの届出」で、すでに確定した「相続権」という財産上の権利を奪うことはできない、というのが法のロジックです。

ここに注意!陥りやすいミス

用地担当者として、以下の2点だけは混同しないように注意してください。

①「相続放棄」とは全く別物です

もし奥様自身も「遺産はいらない、関わりたくない」と言っている場合でも、「姻族関係終了届」を出しただけでは相続放棄になりません。

遺産(土地の権利)を渡したくないなら、家庭裁判所で「相続放棄」の手続きをしてもらうか、遺産分割協議書で「何も相続しない」という内容に実印を押してもらう必要があります。

ここを曖昧にすると、後で「やっぱりハンコ代が欲しい」と言われた時にトラブルになります。

②「復氏届(旧姓に戻る)」が出ていても同じです

姻族関係終了届と一緒に、旧姓に戻る「復氏届(民法751条)」が出されていることがあります。

登記簿上の氏名(婚姻時の姓)と現在の氏名(旧姓)が違うことになりますが、「戸籍の附票」や「除籍謄本」を繋げれば同一人物と証明できます。

名前が変わっていても、相続人であることに変わりはありません。

まとめ:あなたは法的安定の守り神

親族感情が絡むと、地権者は「法律よりも感情」で主張をしてくることがよくあります。

しかし、私たちは「登記が通るかどうか(=法律に適合しているか)」で判断しなければなりません。

もし、他の相続人が納得しない場合は、

「お気持ちは分かりますが、国のルール(民法・不動産登記法)で、奥様の実印がないと手続きが一切進められない決まりなんです。この『登記研究406号』という先例でも決まっておりまして…」

と、今回紹介した根拠をそっと提示してあげてください。

用地取得という大仕事、応援しています!

生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をし、その旨を市町村長に届け出た場合でも、その者の相続権は失われない。(登記研究406号)

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