遺産分割協議書を使って相続登記をする際、「誰の印鑑証明書が必要なのか?」で迷うことがあります。
「全員分つけなきゃいけない」と思っている方が多いですが、実は、不動産を取得する相続人(申請人)の印鑑証明書は、法的には添付不要です。
今回は、なぜ「もらう人(取得者)」の印鑑証明書がいらないのか、その法的根拠と、申請書への記載ルールについて解説します。
1. 結論:必要なのは「それ以外」の人
遺産分割協議書を添付して相続登記を申請する場合、添付が必要な印鑑証明書は以下の通りです。
- 必須: 当該協議により不動産を取得する相続人「以外」の全員分
- 任意: 不動産を取得する相続人の分(あってもなくても良い)
つまり、不動産の名義人になる人(申請人)の印鑑証明書は、つけても構いませんが、法律上は省略しても登記は通ります。
根拠:登記研究748号 44頁
相続による遺産分割の結果を記載した遺産分割協議書に印鑑証明書を添付させる趣旨は、当該協議書が真正に作成されたものであることを、作成者自らに担保させるためであり、当該遺産分割協議によって不動産の相続人となった者以外の相続人全員の印鑑証明書を添付するものとされている。
登記研究429号
相続人全員をもって作成された遺産分割協議書に、遺産の分割を受ける者が押印をする場合、その印鑑は認印でもさしつかえない。
2. 理由:なぜ「もらう人」のはいらないの?
「協議書が本物であることを証明するためなら、全員分が必要では?」と思いますよね。
これには、登記実務特有のロジックがあります。
① 「あげる人(義務者)」の意思確認が重要だから
通常の売買登記をイメージしてください。
- 買主(権利者): 登記をしたい人。「印鑑証明書」は不要。
- 売主(義務者): 権利を失う人。申請意思確認のため「印鑑証明書」が必須。
誤解を恐れず言えば、遺産分割協議もこれに近い関係と思われます。
- 不動産をもらう相続人: 登記を申請する本人であり、権利を得る側(権利者類似)。
- 不動産をもらわない相続人: 自分の持分を譲る側(義務者類似)。
「自分の持分を手放す人たち」が本当に同意しているかを確認するために、彼らの印鑑証明書が厳格に要求されます。一方、申請人(もらう人)は自ら登記所に来て申請を行っているため、意思確認や本人確認は申請行為自体で担保されていると考えられます。
3. 実務上の取り扱い(原本還付・書き方)
実務担当者が間違えやすいポイントを2つ紹介します。
① 原本還付はできますか?
できます。
遺産分割協議書そのものはもちろん、添付した印鑑証明書も原本還付の手続きをすれば戻ってきます。
② 申請書の「添付情報」欄にはどう書く?
「印鑑証明書」とは書きません。
遺産分割協議書に添付する印鑑証明書は、あくまで「協議書の一部(真正さを担保する付属書類)」として扱われます。独立した添付書類ではありません。
【申請書の記載例】
- ◯:登記原因証明情報
- ×:登記原因証明情報、印鑑証明書
通常の売買登記(所有権登記名義人が義務者となる場合)では「印鑑証明書」と書きますが、相続登記の遺産分割協議書付きの場合は書きませんので注意してください。
(※「登記承諾書」に印鑑証明書をつける場合も、添付欄に「印鑑証明書」と書かないのと同じ理屈です。)
まとめ
- 誰の分が必要? → 不動産をもらう人「以外」の全員分。(全員分つけてもOK)
- なぜ? → もらわない人(権利を失う人)の実在性と意思確認が重要だから。
- 書き方は? → 申請書に「印鑑証明書」とは書かない。
「申請人の分も預かっているから、とりあえず全部つけちゃえ」という運用でも問題ありませんが、不足があった時に「申請人の分がないからダメだ!」と焦る必要はありません。このロジックを知っておくと安心です。
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