はじめに:未成年者が地権者に出てくると、正直焦りますよね?
所有者の生年月日が「令和生まれ」だと、ドキッとしませんか?
「うわ、未成年だ。親権者の同意だけでいいの? それとも家庭裁判所で特別代理人の選任が必要?」
この判断を間違えると、契約が無効になったり、法務局で登記が通らずに却下されたりと、大惨事になります。逆に、不要なのに「裁判所に行って」と案内してしまえば、地権者に無駄な労力と時間を強いることになり、信頼関係が崩れてしまいます。
今回は、用地買収やそれに伴う相続登記で頻出する「親権者と未成年者の利益相反」について、現場で武器になる通達(根拠)を整理しました。
結論:この「3つのパターン」で判断せよ
実務上の正解は以下の通りです。
| ケース | 状況 | 特別代理人の選任 | 根拠(抜粋) |
| ①売却 | 親と子が、共有している土地を「一緒によそへ売る」 | 不要 | 昭23.11.5 民事甲2135号 |
| ②相続 | 親と子で「遺産分割協議」をする | 必要 | 昭36.4.24 民事甲728号 他 |
| ③相続 | 親が「相続放棄(家裁)」した後に、子の代理をする | 不要 | 登研 118号 |
解説と根拠:なぜ「〇」または「×」になるのか?
ここでは、なぜそのような結論になるのか、解説します。ここを理解しておくと、地権者への説明力が格段に上がります。
1. まずは条文を押さえる(民法第826条)
通達を使いこなすには、法律を知る必要があります。
Webで検索すると、民法第826条が出てきます。
【民法 】
(利益相反行為)
第826条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
要するに:
親が得をして子が損をする、またはその逆になるような行為(利益相反)の場合、親は子の代理人になれません。「公平な第三者(特別代理人)」を立てなさい、ということです。
登記実務では、実際に損得があったかではなく、「行為の外形(見た目)」で客観的に判断されます。
2. 【ケース①】親と子が一緒に土地を売る(用地買収)
判定:特別代理人は不要
用地課にとって一番嬉しいのがこのパターンです。親も子も共有持分を持っており、それを市町村(第三者)に売却する場合です。
- 解説: 親も子も「土地を失い、対価(補償金)を得る」という点で、利害が一致しています。親が自分の分だけ売って、子の分を売らないといった事情がない限り、同時に売るなら利益相反にはなりません。
- 根拠:〔要旨〕親権者が未成年者と共有の不動産を自己の持分とともに、未成年者に代ってその持分を同時に売却する行為は、利益相反の行為に該当しない。(昭和23・11・5 民事甲第二一三五号 民事局長回答)
3. 【ケース②】親と子で遺産分割協議をする(相続登記)
判定:特別代理人が必要(しかも子の人数分!)
亡くなった父の土地を、母(親権者)と未成年者2人で分ける場合などです。
- 解説: 遺産(パイ)の取り合いです。母が多く取れば子は減る。子Aが多く取れば子Bは減る。これは典型的な利益相反です。注意点: 子が複数いる場合、一人の特別代理人が全員を代理することはできません(代理人と子の間でまた利益相反が起きるため)。子一人につき、それぞれ別の特別代理人が必要です。
- 根拠:
〔要旨〕共同相続人たる未成年者とその親権者とが遺産分割の協議をするには、分割結果が法定相続分と異なると否とにかかわらず、常に未成年者のために特別代理人の選任を要する。(登記研究81号)
〔要旨〕共同相続人中に数名の未成年者が存する場合において、共同相続人の一人たる親権者を交えてする遺産分割の協議については、いかなる場合でも、未成年者一人ごとに各別に特別代理人の選任を必要とする(各別に特別代理人の選任をしないでなした遺産分割の協議の結果による相続登記の申請は、受理されない)。(昭和36・4・24 民事甲第七二八号 民事局長回答)
※その他参考:昭和30・6・18 民事甲第一二六四号、登記研究106号
4. 【ケース③】親が相続放棄や「相続分がない証明」をした場合
判定:特別代理人は不要
ここが実務の抜け道(テクニック)です。
- 解説: 親が家庭裁判所で正式に「相続放棄」をしていれば、親は最初から相続人ではなかったことになります。よって、子との利益対立は消滅するため、親が子の代理として遺産分割協議に参加できます。また、親自身が「私は生前贈与を受けているので相続分はありません」という証明書(特別受益証明書)を作成する場合も、事実の証明に過ぎないため、利益相反にはなりません。
- 根拠:
〔要旨〕親権者が相続放棄をした場合において、他の共同相続人の一人が未成年者であるときは、右の親権者は、未成年者を代理して、遺産分割協議をすることができる(特別代理人の選任を要しない)。(登記研究118号)
〔要旨〕相続登記の申請に際し、共同相続人たる親権者および未成年者がともに民法第九〇三条第二項により相続分がないことの証明書を親権者において作成するについては、特別代理人の選任を要しない。(昭和23・12・18 民事甲第九五号 民事局長回答)
※その他参考:昭和25・10・27 民事甲第二六五号(未成年者の持分放棄について)、登記研究126号(特別受益の証明)
まとめ
- 親と子が「一緒に売る」なら、そのまま契約OK!
- 親と子で「遺産を分ける」なら、特別代理人が必要(家裁へGO)。
- 親が「相続権がない(放棄済み)」なら、親が代理してOK。
これらの判断は、上記で紹介した「通達(昭和〇年〜)」が強力な根拠となります。上司への報告の際、
「昭和23年の民事局長回答に基づき、今回は利益相反に当たらないと考えます」
と言えれば、あなたの信頼度は爆上がり(かも笑)。
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