用地担当のみなさん、お疲れ様です。
さっそくですが、用地買収の場面で、避けて通れないのが「相続登記」です。
地権者さんが亡くなっている場合、戸籍謄本(除籍・改製原戸籍など)の束を集め、法務局へ嘱託しますよね。その際、遺産分割協議書なども提出しますが、「大事な書類だから原本を返してほしい(原本還付)」と言われることがあると思います。
この時、コピー機の前でこんな風に悩んでいませんか? 「あれ? 相続関係説明図を付ければ、コピーはいらないんだっけ? それとも全部コピーするんだっけ?」
今回は、用地事務の効率化(と無駄なコピー作業の削減)のために、「相続関係説明図と原本還付の関係」について、根拠となる通達を交えて実務的に解説します。
【結論】相続関係説明図があっても「住民票」のコピーは必要!
まず、忙しい皆さんのために実務上の結論からお伝えします。
法務局に「相続関係説明図」を提出した場合の扱いは以下の通りです。
- 戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍 👉 コピー(謄本)の作成は不要です。原本を出すだけで還付されます。
- 住民票・戸籍の附票・遺産分割協議書・印鑑証明書 👉 コピー(原本と相違ない旨の記載+記名押印)が必要です。これを忘れると原本は返却されません。
「図面があるから全部コピーなしでOK!」と思い込んでいると、思わぬミスにつながります。以下で、しっかり根拠を確認しておきましょう。
根拠となる通達・条文(ここが説得の武器!)
なぜ戸籍だけコピーが不要で、住民票はコピーが必要なのか。上司に説明できる「根拠」を持っておきましょう。
1. 戸籍等のコピーが不要になる根拠
「法務省民二第457号 平成17年2月25日 法務省民事局長通達」の第7に、はっきりと書かれています。
7 原本還付の取扱い 相続による権利の移転の登記等における添付書面の原本の還付を請求する場合において、いわゆる相続関係説明図が提出されたときは、登記原因証明情報のうち、戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限り、当該相続関係説明図をこれらの書面の謄本として取り扱って差し支えない。
この「〇〇に限り」という部分が重要です。 相続関係説明図は、あくまで戸籍の束の代わりにしかならないのです。
2. なぜ住民票や遺産分割協議書はコピーが必要なのか?
これについては、登記実務のバイブルである「登記研究」に詳しい解説があります。
登記研究726号 p.80~ (要約) 戸籍や除籍は、作成者が市区町村長であり、原本が役所で長期保存されています。万が一紛争になっても、後から同じものを取得して確認できます。だから、法務局にコピーを残さず、簡易な説明図だけで返却しても問題ありません。
一方で、遺産分割協議書などは作成者が私人(個人)あり、法務局にその内容(コピー)を保管しておかないと、後で「どんな書類で登記したんだ!」という争いになった時に確認できません。
この理屈でいくと、住民票や戸籍の附票は公文書ですが、上記の通達(457号)で明確に「戸籍・除籍に限り」と限定されているため、原則通りコピー(謄本)の提出が必要という運用になっています。
住民票や戸籍の附票も保存していないの?と疑問が湧きますが、
戸籍事務を所管しているのは法務省、住民票(住民基本台帳)や戸籍の附票事務を所管しているのは総務省です。
3. 原則のルール(不動産登記規則)
そもそも、原本還付の基本ルールは以下の条文に基づいています。
不動産登記規則 第55条(添付書面の原本の還付請求)
- 書面申請をした申請人は、申請書の添付書面(磁気ディスクを除く。)の原本の還付を請求することができる。(中略)
- 前項本文の規定により原本の還付を請求する申請人は、原本と相違ない旨を記載した謄本を提出しなければならない。
つまり、「コピーを出すのが原則」であり、「相続関係説明図がある時の戸籍」だけが特例でコピー不要になっている、と理解するのが正解です。
現場で役立つQ&A(よくある勘違い)
新人職員さんからよく受ける質問をまとめました。
Q1. 相続関係説明図があれば、戸籍のコピーをしなくていい?
A1. はい、しなくて大丈夫です。 相続関係説明図そのものが「戸籍のコピーの代わり」になります。分厚い戸籍の束をコピーしなくて済むので、事務量が大幅に減ります。積極的に活用しましょう。
Q2. 住民票(または戸籍の附票)も、相続関係説明図に住所を書いておけば、コピーなしで還付される?
A2. いいえ、されません。 ここが一番の落とし穴です。通達により、コピー不要の対象は「戸籍・除籍」に限定されています。 被相続人の「最後の住所」を証する書面(住民票の除票や戸籍の附票)を還付してもらいたい場合は、必ずコピーを作成し、「原本に相違ありません」と記載して記名押印する必要があります。
Q3. 遺産分割協議書はどうですか?
A3. これもコピー必須です。 遺産分割協議書を原本還付したいときは、コピーを付けましょう。
細かい書類作業は大変ですが、根拠を知っていれば迷わず処理できます。 地権者さんに大切な原本を速やかにお返しするためにも、正確な処理を心がけましょう!
登記研究726p80〜
ところで、新法においては、原則として、登記原因証明情報が必須の添付情報とされ(登記原因証明情報の内容については、別途、項を改めて解説する。)、登記完了後は申請書類つづり込み帳に申請書とつづり込んで、30年間登記所に保管し、利害関係を有する者の閲覧に供する(法121条2項)こととされており、後日の紛争防止や物件の調査の手掛かりになるが、旧法における「相続関係説明図」を特別受益証明書の証明書、遺産分割協議書等の謄本に代える原本還付の取扱いは、原則として、登記原因証明情報を必須の添付情報とする新法の趣旨に沿わないことになる。
そこで、新法下においては、「相続関係説明図」についての取扱いを見直し、戸籍の謄本又は抄本及び除籍謄本についてのみ「相続関係説明図」をもって申請人が作成すべき謄本に代えることができることとし、その他の書面について原本還付の請求をするときは、原則どおり、申請人において、還付を求める書面の謄本を作成して提出することを必要とする取扱いとされたものである。
これは、後日、相続関係について紛争が生じた場合に、戸籍の謄本又は抄本及び除籍謄本については、作成者が市区町村長であり、かつ、原本が長期に保存されていることから、相続関係説明図をもってこれらの書面の謄本として取り扱っても、後日に同じ書面を収集することができることから、どのような書面が提出されたかを確認することができるが、その他の特別受益者の証明書、遺産分割協議書等の書面については、作成者が私人であることなどにより、これらを登記所に保管しておかなければ、どのような書面が提出されていたかを確認することができないことによるものと考えられる(前掲平成16年改正不動産登記法と登記実務(解説編)394頁)。
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