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「美しい日本語」でもボツになる? 登記原因証明情報で絶対に外してはいけない「要件事実」のルール

登記原因証明情報(報告形式)を作成している方から、よくこんな質問を受けます。

「ここの言い回しは、この表現で合っていますか?」

お気持ちは分かります。「公文書だから、格調高い、美しい日本語で書かなければ」と身構えてしまうのでしょう。

しかし、法務局での審査において、文章の巧拙は関係ありません。

たとえ日本語として完璧で美しい文章であっても、肝心の「要件事実」が抜けていれば、その書類は即ボツ(補正)となります。

彼らが見ているのは、「法律上の要件を満たしているか」、ただその一点のみです。

今回は、登記原因証明情報の作成において「どう書くか(表現)」よりも重要な、「何を書くべきか(要件事実)」について解説します。

目次

1. 悲劇:「名文」なのに補正対象?

上司: 「うん、日本語としては完璧だね。格調高くて、非の打ち所がない。」
上司: 「でも、ボツ。これじゃ登記は通らないよ。」
部下: 「えっ?! なぜですか?! 誤字脱字もないはずですが……」

なぜ、このような悲劇が起こるのでしょうか。

理由はシンプルです。
この書類に求められているのは「文章の完成度」ではなく、「事実の網羅性」だけだからです。

いくら達筆で流麗な文章でも、「要件事実」がなければ意味がありません。
反対に、事務的な箇条書きのような文章でも、要件事実さえ揃っていれば、誰も文句のつけようがない完璧な書類なのです。

2. 結論:書くべきことは「2つ」だけ

では、最も一般的な「売買」を例に、絶対に書かなければならない要件事実を見てみましょう。

民法上の法律行為(売買など)による登記の場合、必須項目は以下の2点です。

売買における要件事実(鉄の掟)

  1. 契約の事実(いつ、誰と誰が、契約したか)
  2. 物権変動の事実(いつ、所有権が移転したか)

この2つが明記されていなければ、不適格です。

【NG例】

「甲と乙は、本件不動産の売買契約を締結し、円満に取引を完了した。」

(→「いつ所有権が移転したか」という物権変動の事実がないためNG)

【OK例】

「1.甲は乙に対し、令和〇年〇月〇日、本件不動産を売った。」(契約の事実)

「2.よって、本件不動産の所有権は、同日、甲から乙に移転した。」(物権変動の事実)

3. カンニングペーパー:正解はどこに書いてある?

「じゃあ、その『要件事実』とやらは、どこを見ればわかるの?」

確認方法は大きく分けて2つあります。

方法①:民法(法律)を確認する

基本中の基本です。例えば「売買」なら民法555条を見ます。

民法 第555条(売買)

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

ここから、「移転の約束」と「代金の約束」が必要なんだな、と読み解きます。
しかし、条文から登記に必要な要件を抽出するのは、初心者には少しハードルが高いかもしれません。

方法②:専門書(文例集)を見る

実務家にとっての最強のアンチョコ(虎の巻)です。

特におすすめなのが、『不動産登記添付情報文例集』(新日本法規出版)です。

この本には、「作成上の注意事項」として、ケースごとに書くべき要件事実が答えとして載っています。

契約後に売主が亡くなった場合

例えば、「売買契約をしたけれど、登記をする前に売主が亡くなってしまった」という複雑なケース。

上記書籍(p392)には、以下のように正解が書かれています。

  • 書くべきこと(要件事実):
    1. 売買契約が締結された事実
    2. 所有権が移転した事実
    3. 売主に相続が発生した事実(および相続人の特定)
  • 書かなくてもいいこと:
    • 売買代金の金額
    • 代金が支払われた事実

「えっ、代金のことは書かなくていいの?」と驚くかもしれませんが、登記を通すためのミニマムな要件(所有権移転のプロセス)さえ繋がっていれば、代金の支払事実は必須ではないのです(※実務上は書くこともあると思いますが、必須要件ではないという意味です)。

不動産登記添付情報文例集p392

作成上の注意事項
売買契約締結後、所有権の移転登記をしない間に売主が死亡した場合の報告的な登記原因証明情報には、①売買契約が締結された事実、②所有権が移転した事実、③登記義務者である売主に相続が発生した事実及び相続人が記載されていれば足り、売買代金の金額及び支払われた事実まで記載する必要はありません。
買主名義への登記は保存行為(民252だだし書)に該当することから、所有権の移転登記は、相続人のうちの1人から申請することができます。
なお、登記原因の日付は、売買契約締結日です。

まとめ

登記原因証明情報を書くときは、作文をするのではなく、パズルを埋める感覚で臨みましょう。

  1. 「どのように書くか(表現)」よりも「何を書くか(要件事実)」
  2. 売買なら「契約」「移転」の2点セットは必須。
  3. 迷ったら『文例集』の「作成上の注意事項」を確認する。

これさえ守れば、無駄な記述を削ぎ落とした、プロフェッショナルな(そして絶対に補正にならない)書類が作成できますよ。

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