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登記の常識を疑え!「一部買収・代位で分筆」で住所変更を後回しにする鉄則フロー

目次

はじめに:住所が違っても「分筆」はできる!

用地担当の皆さん、日々の業務お疲れ様です。

地権者さんとの交渉や契約、ただでさえ神経を使う仕事ですが、最後に待ち受けているのが「登記」という難関ですよね。

特に、現場でよくあるのがこんな悩み。

「地権者Aさん、引っ越し済みで登記簿上の住所と現在の住所が一致していない……」

「でも今回は、市が『代位』で分筆登記をやることになっている」

通常、登記申請においては「申請書の住所」と「登記簿の住所」が一致していないと手続きが進まないのが大原則です。

そのため、「まずは住所変更登記(名変)をしないと……」と考えてしまいがちですが、「一部」買収かつ「代位」で分筆を行う場合はその手順ではありません。

今回は、「あえて住所変更を後回しにする」という実務上の鉄則フローを解説します。

【結論】代位なら「分筆」が先!「住所変更」は後!

結論から言います。

「一部買収」かつ「代位で分筆」の場合の手順は、以下の通りです。

  1. 分筆登記 👈️ ここが先!
  2. 所有権登記名義人住所変更(分筆された「買収地」のみ)
  3. 所有権移転(市へ名義変更)

「えっ、住所が合っていないのに分筆できるんですか?」

できます。むしろ、そうしないといけません。

解説:なぜ「住所変更」を先にしてはいけないのか?

これには明確な法的根拠があります。私たちが使う伝家の宝刀、「代位権(民法第423条)」の性質が関わっています。

💡 「民法423条」の実務的解釈

条文そのものは難しい言葉で書かれていますが、用地実務における「要点」は以下の通りです。

民法第423条(債権者代位権)

  • 要約: 債権者(市)は、自分の権利を守るために必要があるときは、債務者(地権者)に代わって、その権利を行使できる。
  • ただし: 自分の権利を守るのに「必要な範囲」に限られる。

これを今回のケースに当てはめてみましょう。

  • 私たちの目的: 道路になる「買収地」の名義を市に移すこと。
  • 代位できる範囲: 上記目的のために必要な手続きのみ。
  • 代位できない範囲: 買収に関係ない「残地(地権者の手元に残る土地)」に関する手続き。

もし、分筆前(大きな一筆の状態)で住所変更をしてしまうと、「市が買収しない残地の住所」まで勝手に書き換えることになります。

これは民法423条が認める「必要な範囲」を逸脱した行為(越権行為)になってしまうのです。

だからこそ、「まず土地を切り分けて(分筆)、市がもらう分を確定させてから、その部分だけ住所を直す」という手順が必要なのです。

根拠となる「最強の武器(登記研究454号・408号・455号)」

上司に「住所が違うまま分筆申請して、却下されないか?」と突っ込まれたら、この3つの「登記研究」の質疑応答を見せてください。これらは実務の決定的な根拠になります。

1. 代位なら「分筆」が先である根拠

登記研究454号

〔要旨〕 所有者の住所に変更が生じている土地の一部を地方公共団体が買収する場合、代位による分筆登記、名義人表示変更登記の順で嘱託する。

「分筆が先」と明言されています。

2. 申請書の「書き方」と添付書類の根拠

ここが重要です。分筆の嘱託書には「古い住所」を書くのか、「今の住所」を書くのか?

登記研究408号

〔要旨〕 所有権登記名義人の住所に変更が生じている土地について、所有権登記名義人の表示変更の登記に先立って、分筆登記を代位によって嘱託する場合、嘱託書には被代位者の住所として変更後の住所を記載する。

なお、この場合、住所変更を証する書面が、最初に申請する分筆登記の嘱託書に添付すべきである。

登記研究455号

〔要旨〕 (前略)分筆嘱託登記申請書に、被代位者の変更後の住所を記載したため、登記簿の表示と一致しない場合において、住所の変更を証する書面を添付してなされる嘱託登記は受理される

つまり、

  • 嘱託書には堂々と「現在の新しい住所」を書く。
  • 「住民票(つながりが分かるもの)」を付ける。これで受理されることが保証されています。

実践!「代位分筆」実務フローチャート

では、実際にパソコンに向かって嘱託書を作る際の流れを整理しましょう。

なお、表題部の登記と権利部の登記を連件でしないほうがよい理由については下記記事を参照してください。
👉️ 【実務の急所】「地目変更」と「所有権移転」。連件申請は避けて「分けて出す」のが正解である理由

【Phase 1】 代位による「土地分筆登記」の嘱託

まずは表題部(土地の物理的状況)の変更です。

  • 代位者: ○○市長 ○○ ○○
  • 被代位者(地権者)の住所欄: 「現在の新しい住所」を記載。
    • ※登記簿(旧住所)と一致しませんが、408号・455号によりこれで正解です。
  • 添付書類:
    • 地積測量図
    • 代位原因証書(契約書など)
    • 住所の変更を証する書面(住民票、戸籍の附票など)
    • ※ここでの住民票添付が必須です!「登記上の旧住所」から「新住所」へのつながりを証明します。

⚠️ 注意
この段階ではまだ登記簿の所有者欄(権利部)は書き換わりません。まずは土地が2つに分かれるだけです。

【Phase 2】 代位による「名変」&「所有権移転」の嘱託

分筆が完了し、土地が「残地」と「買収地」に分かれました。ここで初めて、私たちの権限が及ぶ「買収地」に対して権利の登記を行います。これらは連件(セット)で申請可能です。

  • 1件目:代位による「登記名義人住所変更登記」
    • 対象:分筆後の「買収地」のみ
    • 内容:Phase 1で使った住民票を根拠に、新住所へ変更。
  • 2件目:代位による「所有権移転登記」
    • 対象:同上
    • 内容:きれいになった登記名義から、市へ移転。

まとめ:根拠を知れば「イレギュラー」は怖くない

今回のポイントのおさらいです。

  1. 一部買収かつ代位で分筆なら:「分筆」→「住所変更」の順。
  2. 理由は:民法423条により、買収しない土地(残地)の住所変更をする権限が市にはないから。
  3. 申請書の書き方:分筆申請書には「新住所」を書き、「住民票」でつなぐ(根拠:登記研究408号・455号)。

このロジックと根拠(登記研究454号・408号・455号)を知っているだけで、イレギュラーな案件にも落ち着いて対応できるようになりますよ。

参考資料

【登記研究454号】代位による名義人表示変更登記の嘱託 

〔要旨〕 所有者の住所に変更が生じている土地の一部を地方公共団体が買収する場合、代位による分筆登記、名義人表示変更登記の順で嘱託する。

 地方公共団体が個人から土地の一部の寄附を受け代位により分筆登記を嘱託する場合に個人の住所が変更しているときには、当該分筆の後、登記名義人表示変更登記を代位嘱託すべきものと考えますが、いかがでしょうか。なお、元番全部については代位権が生じていないので当該分筆登記に先だって名義人表示変更登記を嘱託した場合は、当該住所変更の嘱託は受理されないと考えますのでその点もあわせて御教示願います。(わけしらず)

 前段、後段とも御意見のとおりと考えます。

登記研究408号

所有権登記名義人の住所に変更が生じている土地について、所有権登記名義人の表示変更の登記に先立って、分筆登記を代位によって嘱託する場合、嘱託書には被代位者の住所として変更後の住所を記載する。なお、この場合、住所変更を証する書面が、最初に申請する分筆登記の嘱託書に添付すべきである。

【登記研究455号】 代位による分筆登記

〔要旨〕 所有者の住所に変更が生じている土地について、代位による分筆登記は、変更を証する書面を添付して、変更後の住所を記載して嘱託することができる。

 道路買収に伴う代位による分筆及び名義人表示変更登記を嘱託する場合において、分筆嘱託登記申請書に、被代位者の変更後の住所を記載したため、登記簿の表示と一致しない場合において、住所の変更を証する書面を添付してなされる嘱託登記は受理されるか。

答 受理できるものと考えます。

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