はじめに:原則は「来ない」ですが…
前回の記事で、通常の用地買収(不動産登記法に基づく代位)における代位登記では、「登記識別情報は通知されない(だから希望欄は削除しよう)」とお伝えしました。
これは、一般の用地課職員にとっては99%正解です。
しかし、もしあなたが「土地改良事業」や「土地区画整理事業」に関わっているなら話は別です。
そこには、一般の用地買収とは異なる強力な特例が存在します。
例外:特別法なら「代位でも通知される」
土地改良法や土地区画整理法に基づいて嘱託登記を行う場合、不動産登記法の特例(土地改良登記令など)が適用されます。
この世界では、なんと「代位登記であっても、登記識別情報が通知される」のです。
土地改良登記令 第3条(代位登記の登記識別情報)
登記官は、(中略)登記を完了したときは、速やかに、登記権利者のために登記識別情報を申請人に通知しなければならない。
仕組みの違い
- 通常の用地買収(代位):申請人が名義人にならないので、登記識別情報は発行されない。
- 土地改良等の事業(代位):法律の特例により、「申請人(事業者)」に識別情報が通知される。→ その後、事業者から地権者(権利者)へ遅滞なく渡す義務がある。
つまり、土地改良の担当者であれば、嘱託書に「登記識別情報の通知を希望します」と書くのが正解となるケースがあるのです。
驚愕:買収してなくても代位できる!?
さらに驚くべきなのが、その権限の強さです。
通常の用地課職員からすると、
「代位登記をするためには、売買契約を結んで『所有権移転登記請求権』という保全すべき権利(代位原因)がないとダメだよね?」
というのが常識です。
しかし、土地改良事業者は、土地を買収していなくても(契約前でも)、事業に必要なら代位登記ができます。
土地改良登記令 第2条(代位登記)
土地改良事業を行う者は、(中略)必要があるときは、次の各号に掲げる登記を(中略)代わつて申請することができる。
四 所有権の保存の登記
五 相続その他の一般承継による所有権の移転の登記
つまりどういうこと?
地権者が亡くなって相続登記が未了の土地があるとします。
- 一般の用地課: まず相続人を探して、契約を結んでからでないと代位登記できない(ことが多い)。
- 土地改良事業者: 事業の必要性があれば、買収契約がなくても、いきなり相続登記を代位で入れてしまうことが可能。
この「強制力」に近いパワーは、面的な整備を行う事業特有のものです。
まとめ:自分の「根拠法」を確認しよう
「代位登記」とひとことで言っても、あなたが「どの法律に基づいて仕事をしているか」でルールが激変します。
- 一般の用地買収(公有地拡大法・土地収用法など):→ 不動産登記法の原則通り。代位登記で識別情報は来ない。
- 面的な整備事業(土地改良法・土地区画整理法):→ 特別法の特例あり。代位登記でも識別情報は来る場合がある。
「用地課の常識」は「土地改良の非常識」かもしれません。
もし、異動で土地改良区などの担当になったら、「前の部署では削除してたから」と安易に消去せず、その事業の根拠法令(登記令)を必ずチェックしてくださいね!
なお、土地改良登記令に基づく代位登記を行う際の登記申請書の記載例については、以下をご参照ください。
https://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/tuti/pdf/t0000771_p001.pdf
土地改良登記令
(趣旨)
第一条 この政令は、土地改良法(以下「法」という。)第五十五条(法第八十四条、第八十九条の二第十項、第九十六条及び第九十六条の四第一項において準用する場合を含む。以下同じ。)の規定による登記の申請に関する事項及び法第百十五条の規定による不動産の登記の特例を定めるものとする。
(代位登記)
第二条 土地改良事業を行う者は、この政令の定めるところにより登記を申請する場合において、必要があるときは、次の各号に掲げる登記をそれぞれ当該各号に定める者に代わつて申請することができる。
一 不動産の表題登記 所有者
二 不動産の表題部の登記事項に関する変更の登記又は更正の登記 表題部所有者若しくは所有権の登記名義人又はこれらの相続人その他の一般承継人
三 登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記 登記名義人又はその相続人その他の一般承継人
四 所有権の保存の登記 表題部所有者の相続人その他の一般承継人
五 相続その他の一般承継による所有権の移転の登記 相続人その他の一般承継人
(代位登記の登記識別情報)
第三条 登記官は、前条の規定による申請に基づいて同条第四号又は第五号に掲げる登記を完了したときは、速やかに、登記権利者のために登記識別情報を申請人に通知しなければならない。
2 前項の規定により登記識別情報の通知を受けた申請人は、遅滞なく、これを同項の登記権利者に通知しなければならない。
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