MENU

抵当権抹消の裏技:書類作成者が「代表取締役」以外でもそのまま通す方法

目次

はじめに:鋭い職員ほど陥る「688号の罠」

「先輩、銀行から届いた解除証書、作成者が『支店長』になっています」

「うん、よくあることだね」

「でも、登記研究688号には『支店長が作成する場合、権限があることを証する情報(社内規定など)を提供すればOK』と書いてあります。今回の書類には社内規定なんて付いてません! これ、補正になりませんか?」

もし新人にこう言われたら、私はその勉強熱心さに感動します。

確かに先例を真面目に読むと、「社内規定がない=アウト」に見えます。

しかし、実務の正解は「社内規定は添付しなくていい」です。

なぜ条文にある条件を無視できるのか? そこには、実務家だけが知る「ロジックの使い分け」があります。

結論:嘱託書の義務者を「代表取締役」にせよ

社内規定(権限証明書)なしで登記を通すための条件は、たった一つ。

「嘱託書(申請書)の義務者欄には、本店の『代表取締役』を書くこと」

これさえ守れば、添付書類(解除証書)を作ったのが支店長であっても、社内規定なしで受理されます。

解説:2つの先例(688号と427号)の決定的な違い

似ているようで全く違う、2つの先例を比較してみましょう。ここが理解できれば、あなたはもう「登記のプロ」です。

1. 【原則論】登記研究688号のスタンス

要旨: 支配人登記のない支店長でも、権限があることを証明(社内規定等を添付)すれば、作成名義人になれる。

これは「一般論」です。「支店長が勝手に作ったかもしれない書類」を法務局は警戒します。だから「本当に権限があるのか証明書(規定)を見せろ」というスタンスです。

2. 【実務論】登記研究427号のスタンス(今回の切り札)

要旨: 支配人登記のない銀行支店長が作成した書類でも、銀行代表者から申請があった場合には、受理して差し支えない。

こちらは「抵当権抹消」に特化した回答です。ここでは「社内規定を添付せよ」とは書かれていません。

なぜ427号では「規定」が不要なのか?

427号の解説には、以下のようなロジックが示されています。

「抵当権の抹消登記申請は、株式会社である銀行の代表者から申請されるものであり(中略)、その申請において『支店長』作成の証書が添付されているのであるから、その証書に係る法律事実も、銀行そのものに対して有効に生じていると解するのが相当であろう。」

平たく言うと、こういうことです。

「会社のトップ(代表取締役)の名前で申請が出てきている以上、添付書類を作ったのが部下(支店長)であっても、トップが『これでよし』と認めて出してきたんだから、いちいち社内規定なんて確認しなくて信用しますよ」

この「代表者申請による追認」の理屈があるため、688号で求められる「社内規定の添付」を省略できるのです。

実践:嘱託書の正しい書き方

では、実際にどう書けばいいのか確認しましょう。

状況

  • 添付書類(登記原因証明情報): 「○○支店長」の記名押印(支配人登記なし、社内規定なし)

嘱託書の記載(ここが勝負!)

義務者欄には、支店長ではなく、必ず「代表取締役」を記載してください。

▼ 嘱託書 義務者欄の記載例

項目記載内容
義 務 者○○市○○町二丁目12番地
株式会社○○銀行
会社法人等番号 1234-56-789012
代表取締役 法務 太郎
(解説)↑ここに「代表取締役」と書くことで、427号の「代表者からの申請」という条件が満たされ、添付書類の不備(権限証明なし)が不問になります。

もしここで、バカ正直に「義務者:○○支店長」と書いてしまうと、427号の理屈が使えなくなり、688号の原則に戻って「じゃあ社内規定を出せ」と補正を食らうことになります。

まとめ:上司への報告はこれで完璧

上司に「支店長印だけど大丈夫か? 書き直させろ」と言われたら、こう答えてください。

  1. 「登記研究688号では確かに『社内規定』が必要と読めます」(上司の懸念を肯定)
  2. 「しかし、登記研究427号という別の先例があり、『嘱託書の義務者を代表取締役』にしておけば、社内規定なしで受理されるという取扱いになっています」
  3. 「ですので、嘱託書側で調整します。銀行への書き直し依頼は不要です!」

法律(会社法)や先例(登記研究)は、知っているだけで無駄な業務を劇的に減らせます。

わざわざ銀行に電話して「社内規定をください」なんて言って、担当者を困らせる必要はありません。自信を持って処理を進めてください!

登記研究688

支配人登記がされていない支店長等が登記原因証明情報の作成名義人となることの可否について

[要旨]
登記原因証明情報の作成名義人となる法人の代表者に代わるべき者には、支配人登記がされていない支店長等も含まれる。


法人が登記義務者となって権利に関する登記を申請する場合の登記原因証明情報の作成名義人は、法人の代表者又はこれに代わるべき者であると考えますが、法人内部で実質的に申請に係る不動産の取引を行う権限があり、その権限があることを証する情報(社内規定や業務権限証明書等)を併せて登記所に提供した場合には、支配人登記がなされていない支店長等であっても、代表者に代わるべき者として登記原因証明情報の作成名義人となることができると考えますが、いかがでしょうか。


ご意見のとおりと考えます。

登記研究427

支配人の登記のない銀行支店長作成の原因証書を添付した抵当権抹消登記の受否について

(昭和58年3月7日付け登第257号福島地方法務局照会、同月24日付け法務省民三第2、205号民事局第三課長回答)

[要旨]
支配人登記のされていない銀行支店長が作成した弁済証書又は解除証書を登記原因を証する書面として、銀行代表者から抵当権抹消登記申請があった場合には、受理して差し支えない。

(照会)
支配人登記のされていない銀行支店長が作成した弁済証書又は解除証書を登記原因を証する書面として、銀行代表者から抵当権抹消登記申請があった場合には、受理して差し支えないものと考えますが、いささか疑義がありますので何分のご指導を願います。

(回答)
本年3月7日付け登第257号をもって照会のあった標記の件については、貴見のとおり取り扱って差し支えないものと考えます。

[解説]
1 本件照会の趣旨は、銀行の支店長名義で作成された弁済証書又は解除証書が抵当権抹消登記の際の登記原因を証する書面としての適格を有するか否かを問うものである。「支店長」という肩書は、銀行の組織の内部的な呼称であって、「支配人」のようにその代理権限が法律上明定されているものとは異なるところから、支店長名義で作成された弁済証書等が登記原因証書として適当か否かに疑問をもたれたものと思われる。

2 登記原因を証する書面は、申請に係る権利変動の成立を文書という手段で証明せしめ、これを登記申請書に添付させることによって、登記官に形式的に証明に係る法律事実の存在の判断を可能にするものである。作成権限のない者が作成した文書は登記原因を証する書面としての適格性はないとされるが、代理人が作成した文書が登記原因を証する書面である場合でも、さらに代理権限を証する書面を添付することを要しないと解されている。

3 そこで、銀行の「支店長」が弁済証書又は解除証書を作成する権限を有するか否かであるが、銀行の支店はその組織上独立の営業活動を行う単位として、その支店ごとに営業活動を決定し、対外的な取引を行う社会的な実体を有すると解され、したがって、その支店に置かれている「支店長」は、それが、「支配人」の登記がされている場合はもちろん、そうでなくても、支店において行われる営業活動の範囲内で弁済を受領し、又は合意解除を行う等の権限を有すると解することができる。また、抵当権の抹消登記申請は、株式会社である銀行の代表者から申請されるものであり、その申請において「支店長」作成の弁済(又は解除)証書が添付されているのであるから、その証書に係る法律事実も、銀行そのものに対して有効に生じていると解するのが相当であろう。登記した「支配人」がその名義で作成した弁済証書又は解除証書でなければ登記原因と証する書面に該当しないと解する必要はないと考えられる。  以上の趣旨により本件回答がされたものであろう。

よかったらシェアしてね!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次