はじめに:嘱託登記は「簡単」ではない
「先輩、今回の嘱託は簡単ですね。地権者の住所が変わっていたので、代位で変えておくだけですよね?」
新人の皆さん、その油断が禁物です。
確かに官公署の嘱託登記は、一般の申請に比べて添付書類が省略されるなど「特権」があります。しかし、だからといって「登記の記載ルール」まで甘くなるわけではありません。
特に注意が必要なのが、「1つの順位番号(箱)に、複数の共有者が入っている」ケースです。
結論:「誰の」住所が変わったのか明記せよ!
共有者(Aさん・Bさん)がいる場合、「変更後の事項」には単に「住所」と書かず、「共有者Aの住所」と具体的に書いてください。
- × ダメな例:
変更後の事項 住所 ○○市…… - ◎ 正解の例:
変更後の事項 共有者Aの住所 ○○市……
解説:なぜ「住所」だけではダメなのか?
具体例で見てみましょう。
AさんとBさんが相続で土地を取得し、共有している状態です。
▼ 現在の登記記録(イメージ)
(※AさんとBさんが「順位2番」という一つの箱に入っています)
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 2 | 所有権移転 | ◯年◯月◯日 第◯号 | 原因 ◯年◯月◯日相続 共有者 くまのみ市1番地 持分2分の1 A くまのみ市100番地 持分2分の1 B |
この状態で、Aさんだけが引っ越しをしました。
用地買収(所有権移転)の前提として、Aさんの住所変更登記(代位)を行います。
よくある間違い
嘱託書の「変更後の事項」に、いつもの癖でこう書いてしまうのです。
変更後の事項 住所 くまのみ市10番地
これを見た法務局の登記官はどう思うでしょうか?
「順位2番には、AとBの2人が入っているぞ。『住所』って書いてあるけど、どっちの住所が変わったんだ?」
登記記録上、AとBは「順位2番」という同じ部屋の住人です。
単に「住所」と書いただけでは、Aの変更なのか、Bの変更なのか、あるいは両方なのかが特定できません。
正しい書き方
「この箱の中にいる、Aさんの住所を変えます」と指名する必要があります。
登記嘱託書(正解)
登記の目的 2番所有権登記名義人住所変更
原 因 ◯年◯月◯日住所移転
変更後の事項 共有者Aの住所
くまのみ市10番地
こう書けば、Bさんには触れず、Aさんだけを変更することが明確になります。
応用編:こんな時はどう書く?
名変登記(氏名・住所変更)は、実は「それだけで専門書が1冊書ける」と言われるほど奥が深い世界です。
よくあるバリエーションも覚えておきましょう。
ケース1:Aさんの「氏名」と「住所」が両方変わった
結婚して引っ越した場合などです。
変更後の事項 共有者Aの氏名住所
くまのみ市10番地
甲 野 花 子
ケース2:AさんとBさんが「一緒に」引っ越した
夫婦などで、同じ日に同じ新居へ引っ越した場合、1件の嘱託書でまとめて代位できます。
変更後の事項 共有者A及びBの住所
くまのみ市10番地
まとめ:コピペする前に「登記簿」を見ろ!
共有名義の登記を見たら、「この人たちは同じ箱に入っている」とイメージしてください。
- 単有(一人)の場合: 「住所」だけで通じる。
- 共有(複数)の場合: 「共有者◯◯の住所」と指名が必要。
嘱託登記は「簡単」だと思われがちですが、それはあくまで添付書類の話。
記載内容の正確さは、司法書士と同レベルの知識が求められます。
迷った時は、前の順位や共有者の構成をよく確認する。
このひと手間で、補正の電話を回避しましょう!
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