はじめに:同じ書類を2回出すのはムダじゃない?
「先輩、今回の嘱託、売買と住所変更の2連件なんですが、同じ印鑑証明書を2枚もらう必要がありますか? 1枚を使い回せませんか?」
新人さんからこう聞かれたら、どう答えますか?
答えは「ケースバイケース」です。
登記には、一度出した書類を次の登記でも利用できる「添付書類の援用(えんよう)」という便利なルールがあります。これを使えば、地権者さんに余計な書類を請求せずに済みます。
しかし、このルールには「3つの条件」があり、これを満たさないと「使い回し不可(もう1通必要)」となります。
今回は、実務で迷いやすい「援用」のルールを、失敗事例を交えて一気に解説します。
基本:援用(えんよう)ってなに?
通常、登記申請にはそれぞれの件ごとに添付書類が必要です。
しかし、連件(1件目、2件目…と続けて出す場合)で、内容が全く同じ書類がある場合、2件目の添付を省略できます。
根拠:不動産登記規則 第37条
同一の登記所に対して同時に二以上の申請をする場合において、各申請に共通する添付情報があるときは、当該添付情報は、一の申請の申請情報と併せて提供することで足りる。
嘱託書への書き方
2件目の嘱託書の添付書類欄に、以下のように記載します。
- 1件目(前件): 登記原因証明情報兼承諾書(印鑑証明書付)
- 2件目(後件): 登記原因証明情報兼承諾書 (印鑑証明書は前件添付)
これだけでOKです。簡単ですね。
実践:援用できるか? 「3つのチェックポイント」
援用ができるかどうかは、以下の3つをすべて満たすかで判断します。
- 【同時に】(連件で出すならOK)
- 【2つ以上の申請】(連件ならOK)
- 【各申請に共通する】(※ここが最大の難関!)
1と2は、普通に連件で出せばクリアできます。
問題は3つ目の「共通する」の意味です。これは単に「同じ紙切れかどうか(物理的同一)」ではなく、「法的な性質(意味合い)が同じか」という深い問いなのです。
応用:ここが落とし穴! 「援用できない」具体例
一見できそうなのに、実は「援用不可」となる代表的なケースを2つ紹介します。
ケース1:AさんとBさんが同じ住民票に載っている時
【状況】
AさんとBさん(同居家族)の土地について、それぞれ住所変更登記を連件で出します。
2人は同じ世帯なので、1通の住民票に2人の名前が載っています。
- 1件目(Aの登記): 住民票(A・B記載)を添付。
- 2件目(Bの登記): 「前件添付」で援用できる?
【答え:× できません】
根拠:登記研究514号
「紙」としては1枚に2人の名前がありますが、法的な「意味(添付の趣旨)」が違うからです。
- 1件目: 「Aの住所」を証明するために添付(Bの情報はオマケ)。
- 2件目: 「Bの住所」を証明したい。
1件目で提出した書類はあくまで「Aのため」に使われてしまったので、申請人が異なる2件目の「Bのため」の書類としては、共通性がない(援用できない)と判断されるのです。
【対処法】
この場合は「原本還付」を使います。
1件目のAの登記で「住民票のコピー(原本還付請求付)」を出し、戻ってきた原本を2件目のBの登記に付ければOKです。
ケース2:「市」と「公社」で土地を買う時
【状況】
地権者(南陽マンタ氏)から、甲土地を「市」が、乙土地を「土地開発公社」が買います。
どちらも承諾書には南陽氏の印鑑証明書が必要です。
- 1件目(市の買収): 南陽氏の印鑑証明書を添付。
- 2件目(公社の買収): 「前件添付」で援用できる?
【答え:× できません】
なぜなら、「誰に対して出した承諾書か」が違うからです。
- 1件目は「市に売ること」への承諾書の証明。
- 2件目は「公社に売ること」への承諾書の証明。
「市」と「公社」は、名前は似ていても法律上は全くの別人格(別法人)です。 別人に対する意思表示の裏付け資料を、勝手に使い回すことはできません。
(※実際に実務で援用しようとして、法務局からNG連絡を受けた実例があります)
【要注意! 対処法】
さらに厄介なのが、「承諾書につける印鑑証明書は、原則として原本還付できない」という点です。
つまり、このケースでは、南陽さんに「印鑑証明書を2通ください」とお願いするしかありません。
ここを間違えて1通しか貰っていないと、後から「もう1通ください」と電話する羽目になります。
補足:こんなケースは援用OK!
逆に、以下のようなケースは問題なく援用できます。
- 表示登記と権利登記の連件(例:地目変更 → 所有権移転)地目変更でつけた案内図や住所証明書などは、後の所有権移転でも援用可能です(登記研究198号)。
cf. 表示と権利の連件については、次に記事を参考にしてください。
【実務の急所】「地目変更」と「所有権移転」。連件申請は避けて「分けて出す」のが正解である理由
まとめ:援用の「3つのチェック」
「物理的に同じ紙だから使い回せるでしょ?」という安易な判断は危険です。
添付書類を援用できるか迷ったら、以下の3点を自問自答してください。
- 【タイミング】 同時に出すか?(連件ならOK)
- 【申請人】 申請する側(嘱託者)は同じか?
- 【共通性】 「誰のための」「誰に対する」書類か、性質は同じか?
特に3番目が重要です。 「相手(権利者)が違えば、書類の性質も変わる」。 この感覚を持っていれば、うっかりミスを防ぐことができますよ!「紙の節約」よりも「確実な手続き」を優先して判断しましょう!
登記研究514
[要旨] A、B両名の記載がある住所証明書を添付してA、Bそれぞれのためにする所有権移転登記を連件で申請する場合、右証明書を援用することができない。
[問] A及びB(同一世帯)両名の記載がある住所証明書を添付してAのためにする所有権移転登記を申請する場合において、同時にBのためにする所有権移転登記を申請するときは、右住所証明書を援用して差し支えないものと考えますが、いかがでしょうか。
[答] 申請人が異なるので援用することはできないものと考えます。
S32.6.27民甲1220
相続登記に添付した遺産分割協議書の印鑑証明書は、同時に申請した同一不動産の抵当権設定登記の添付書類として援用できない(S32.6.27民甲1220)
遺産分割協議書の印鑑証明書: 協議書作成の真正担保のため
抵当権設定の印鑑証明書: 申請意思の確認のため
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