はじめに:連件はできても、書類は別々
例えば、以下のようなケースです。
- 1件目(申請): 売主がする相続登記(単独申請)。
- 2件目(嘱託): 役所がその土地を買収する(官公署の嘱託)。
これらを連件で出すことは可能です。
しかし、1件目で使った添付書類を、2件目で「前件添付」として援用することはできません。
それぞれに原本(またはしかるべき写し)を添付する必要があります。
根拠:条文の「読み替え」パズル
なぜ連件なのに使い回せないのか?
その答えは、不動産登記規則の条文解釈にあります。
1. 「援用」の基本ルール(規則37条)
まず、書類を使い回せるルールの条文を見ます。
不動産登記規則 第37条(添付情報の省略等)
同一の登記所に対して同時に二以上の【申請】をする場合において、各【申請】に共通する添付情報があるときは、(中略)一の【申請】の申請情報と併せて提供することで足りる。
「申請」と「申請」ならOKと書いてあります。
2. 「嘱託」への読み替えルール(規則192条)
次に、官公署の「嘱託」についてのルールを見ます。
不動産登記規則 第192条(登記の嘱託)
(中略)この省令中「申請」(中略)にはそれぞれ【嘱託】(中略)を含むものとする。
つまり、「申請」という言葉は「嘱託」と読み替えていいですよ、というルールです。
3. ここでパズルを解いてみましょう
規則192条を使って、規則37条を読み替えると、以下の2パターンが生まれます。
- パターンA(原文通り):同時に二以上の【申請】をする場合……各【申請】に共通する……→ 「申請」+「申請」はOK!
- パターンB(読み替え):同時に二以上の【嘱託】をする場合……各【嘱託】に共通する……→ 「嘱託」+「嘱託」はOK!
お気づきでしょうか?
条文の構造上、「同時に『申請』と『嘱託』をする場合」というミックスパターン(パターンC)が存在しないのです。
結論:水と油は混ざらない
過去の質疑応答(先例)でも、この解釈は確定しています。
登記研究728号(質疑応答)
登記嘱託書の添付書類は、同時に提出した申請による他の登記に援用できない。
(理由:規則37条の読み替え規定の法意から許されないため)
「申請(民間)」と「嘱託(役所)」は、手続きの性質が異なります。
条文上、「同じ種類同士なら使い回していいけど、違う種類をまたいで使い回すことは想定していない」というのが法務局のスタンスです。
まとめ:横着せずに2通用意しよう
- 「申請」+「申請」= 援用OK
- 「嘱託」+「嘱託」= 援用OK
- 「申請」+「嘱託」= 援用NG!
この組み合わせの時は、「そもそも別の手続きがたまたま同時に行われているだけ」と割り切ってください。
書類のコピー代を節約しようとして補正になるより、最初からきっちり必要部数を揃えて提出するのが、プロの仕事です。
登記研究728
質疑応答
質疑応答24(本誌192号71頁)
官公署等の代位登記の嘱託書等に添付された法41条(現行登記令別表の22の項添付情報欄)の相続を証する書面を、私人の登記申請書の添付書面に援用することは、法細則第44条ノ9(現行規則第37条第1項)の法意から許されない。
質疑応答25(本誌217号73頁)
登記嘱託書の添付書類は、同時に提出した申請による他の登記に援用できない。
解説
ところで、不動産登記規則中、「申請」、「申請情報」には、それぞれ「嘱託」、「嘱託情報」を含むものとされている(規則192条)。したがって、同一の登記所に対して同時に二以上の嘱託をする場合において、各嘱託に共通する嘱託情報があるときは、規則37条1項が適用されることになるから、嘱託と私人による登記申請が同時に提出され、それぞれの登記に共通する相続を証する書面(登記原因証明情報)があったとしても、その添付書類を援用することは認められない(質疑応答24・質疑応答25)。
不動産登記規則
(登記の嘱託)
第百九十二条 この省令に規定する登記の申請に関する法の規定には当該規定を法第十六条第二項において準用する場合を含むものとし、この省令中「申請」、「申請人」及び「申請情報」にはそれぞれ嘱託、嘱託者及び嘱託情報を含むものとする。
(添付情報の省略等)
第三十七条 同一の登記所に対して同時に二以上の申請をする場合において、各申請に共通する添付情報があるときは、当該添付情報は、一の申請の申請情報と併せて提供することで足りる。
2 前項の場合においては、当該添付情報を当該一の申請の申請情報と併せて提供した旨を他の申請の申請情報の内容としなければならない。
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