登記実務の世界では、困ったときの切り札として「登記研究〇〇号によると…」というフレーズが飛び交います。
しかし、新人担当者からすれば、「えっ? 法律や通達じゃなくて、民間の出版社が出している『雑誌』を根拠にしていいの?」と不安になりますよね。
実は、この雑誌はただの雑誌ではありません。実務上は「準先例(法律に近いルール)」として扱われる、極めて権威ある存在です。
今回は、なぜ一介の雑誌がそこまでの力を持っているのか、そのカラクリを解説します。
1. 「登記研究」とは何か?
「登記研究」は、株式会社テイハンが月刊で発行している、登記実務の専門誌です。
書店で買える民間企業の雑誌ですが、法務局の現場や司法書士事務所には必ずと言っていいほどバックナンバーが並んでいます。
2. なぜ「根拠」になるのか?(著者の正体)
民間雑誌なのに、なぜ公務員である登記官がこれを判断基準にするのでしょうか。
その秘密は、人気の連載コーナー「質疑応答」にあります。
このコーナーの回答を作成しているのは、実は法務省民事局(登記を管轄する部署)の担当官であるとされています(公然の秘密、あるいは実質的な事実として)。
つまり、形式は「雑誌の記事」ですが、実質的には「法務省当局の公式見解(に近いもの)」が書かれているのです。
3. その効力は「準先例」クラス
実務におけるルールの優先順位を整理すると、以下のようになります。
- 法律・政省令(不動産登記法など)
- 通達・回答(民事局長通達など=いわゆる「先例」)
- 登記研究「質疑応答」(実務上の「準先例」)
「法律」や「通達(先例)」に書かれていない細かい実務上の疑問について、登記研究の質疑応答は、それらを補完する事実上のルールブックとして機能しています。
公的な手引きにも明記されています
実際に、官公署向けの登記手引きでも、その権威性が認められています。
『公共事業用地取得のための嘱託登記事務の手引き』より
(沖縄地区用地対策連絡会 沖縄総合事務局開発建設部用地課内)
- 先例・・・法務省当局の通達、回答、訓令その他
- 応答・・・「登記研究」誌上に掲載された法務省民事局係官の応答(=先例に準ずる評価がなされています)
4. 結論:堂々と引用してOKです
法務局と協議をする際、「法律には書いてないですが、登記研究〇〇号の質疑応答で『できる』とされています!」と主張するのは、非常に有効な交渉術です。
- 法律: 大まかなルール
- 先例(通達): 行政の運用ルール
- 登記研究: さらに細かい現場のQ&A
これらは三位一体となって登記実務を支えています。「たかが雑誌」と思わず、強力な武器として活用してください。
司法書士試験の受験界(伊藤塾など)でも、学習上の重要資料として扱われているほど信頼性は抜群です。
伊藤塾 司法書士試験科 2022年12月16日の蛭町先生の記事に質疑応答の位置づけが書かれています。
登記研究897号の記事を斬る
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