はじめに:数字は決まっているのに、なぜ待つのですか?
用地買収の実務において、分筆登記のアプローチには大きく分けて2つのパターンがあります。
- 代位パターン(王道):先に売買契約を結び、その契約書を根拠に官公署が「代位」で分筆登記を嘱託する。
- 申請パターン:売主(地権者)の名義で分筆登記を申請してもらい、登記完了後に所有権移転をする。
今回問題にしたいのは、2つ目の「申請パターン」で進めようとしているケースです。
「売主さんから申請してもらうんだから、法務局の手続きが終わって、新しい地番(〇番2)が決まらないと、契約書が作れない」
そう思い込んで、契約を先送りにしていませんか?
測量図が完成しているなら、それは不要な待ち時間です。面積などのスペックは既に確定しているのですから、登記の完了を待たずに今すぐ契約可能です。
1. 「登記待ち」の空白期間はリスクしかない
測量も終わり、面積も確定しているのに、契約を結ばずに放置するのはリスクでしかありません。
- 心変わりのリスク:「親戚に相談したら反対された」「やっぱり売るのをやめたい」と突然言われたらどうしますか? 契約締結前であれば、翻意されても法的に止めることは困難です。
- 突発的な相続のリスク:登記を待っている間に地権者が急死してしまったら? 契約書がなければ、相続人全員と最初から交渉をやり直すことになります。
数字(面積)が決まっているなら、その数字で先行して契約を結んでおくのが危機管理の鉄則です。
2. まだない地番をどう契約書に書くか?(一工夫)
「でも、分筆登記が終わっていないなら、『〇〇番2』という地番が存在しないじゃないか。契約書に何を書けばいいんだ?」
ここで必要なのが、「測量図による特定」です。
新しい地番がなくても、完成している「地積測量図(案)」を使えば、売買対象を完璧に特定できます。
具体的な書き方(確定面積での記載)
契約書の「物件の表示」欄を、以下のように記載します。
- 図面を合綴する:契約書に、今回完成した「地積測量図(案)」を別紙として付け、必ず契印(割印)を押します。
- 「点」で囲み、面積を確定させる:文言で以下のように特定します。
【売買物件の表示】
所 在: 〇〇市〇〇町一丁目
地 番: 100番(分筆前の親地番)
地 目: 宅地
売買部分: 上記土地の一部であり、別添測量図のA点、B点、C点、D点、A点を順次結んだ直線で囲まれた部分
売買地積: 50.00㎡
(別添地積測量図記載の実測面積による)
これで、「法的な売買対象物」は客観的に確定しました。
地番があろうがなかろうが、面積も範囲も決まっていますので、この内容で有効に契約が成立します。
まとめ
- 「分筆申請パターン」であっても、登記完了を待つ必要はない。
- 測量図が完成しているなら、地積も「確定値」で記載してOK。
- 測量図を合綴し「点」で特定した契約書を作れば、即契約できる。
測量図ができあがった瞬間が、契約のタイミングです。
地番の付番を待つタイムラグをなくし、確実な用地取得を進めましょう。
【参考】根拠となる登記研究(先例)
本記事で解説した「分筆前の特定」や「契約書の記載方法」に関する根拠資料です。
1. 分筆前の部分的な買収・特定の必要性について
官公署が代位で分筆登記を行う場合、契約書(代位原因証書)において「どの部分を分筆するのか」が客観的に特定されている必要があります。
登記研究263号 63頁(官公署の代位による分筆登記の代位原因証書)
問 代位による分筆登記の代位原因証書について、一筆の土地の一部を買収した場合被買収者に代位して官公署が分筆登記を嘱託する場合でも、代位原因証書において、買収した部分すなわち分筆する部分を図示するかもしくは文言によって分筆する部分を示す等の方法によってその部分が客観的に特定されているものであることを要すると解しますが、いかがでしょうか。
答 ご意見のとおりと考えます。
登記研究241号 67頁(代位による分筆登記の代位原因証明書について)
要旨 代位による分筆登記の代位原因証書には、分筆する部分が明らかにされていることを要する。
2. 契約書への具体的な記載方法について
「点」を結んで特定する方法や、測量図を合綴する実務上の扱いについて言及されています。
登記研究745号 156頁(売買物件の表示)
(記載例)
〇〇市〇〇町二丁目の市道〇号線、同所314番地、315番地、320番地及び317番地の各土地に接する土地であって、別添測量図のK4点、K2点、K1点、K5点、K6点、K3点及びK4点の各店を結んだ直線で囲まれた土地
登記研究741号 68頁(解説より抜粋)
分筆に係る不動産を特定するために、例えば、「何番何平方メートルのうち何平方メートル(図面のとおり)」の振合いにより(中略)、位置・形状・面積等を具体的・明確に記載する必要があり、官公署の代位による分筆の嘱託の場合も同様の扱いである。
登記実務においては、土地家屋調査士が作成した地積測量図の写しを当該分割協議書等に合綴し、契印をする取扱いをしているのが通常であると考えられる。
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