相続登記の添付書類として住民票を取得する際、職員の方から「相続用だから、本籍記載のものじゃないとダメですよね?」と念押しされることがあります。
あるいは、うっかり「本籍なし」の住民票を取ってきてしまい、「これじゃ使えないから取り直しだ…」と諦めていませんか?
実は、相続登記における住民票は、本籍の記載がなくても受理されます。
「本籍必須説」は、実務上の「望ましい」が「必須」にすり替わって定着した誤解です。
今回は、なぜ「本籍なし」でもOKなのか、その根拠を解説します。
1. 結論:「本籍なし」でも登記は通ります
相続登記の申請書に添付する「登記名義人(相続人)の住所証明書(住民票)」について。
結論から言うと、本籍の記載は省略して構いません。
「本籍の記載がない住民票」を添付しても、法務局で補正(やり直し)になることはありません。そのまま登記は完了します。
2. 理由:戸籍と住民票の「パズル」で特定できるから
なぜ、本籍がなくても本人だと分かるのでしょうか?
それは、相続登記の添付書類の仕組みに理由があります。
照合のロジック
相続登記では、登記原因証明情報として必ず「戸籍謄本」を添付しますよね。
登記官は、この「戸籍」と「住民票」を照らし合わせて、申請人が相続人本人であるかを確認します。
- 戸籍謄本: 氏名 + 生年月日 が載っている。
- 住民票(本籍なし): 氏名 + 生年月日 が載っている。
この2点(氏名・生年月日)が一致していれば、たとえ本籍の記載がなくても「相続人本人である」と特定(同一性の確認)ができるため、本籍記載は必須要件ではないのです。
3. 根拠:先例で明確に認められています
「でも、心配だから…」という方のために、根拠となる先例(登記研究)をご紹介します。
登記研究524号 167頁(登記研究747号 59頁)
【要旨】
相続登記の添付書面である住所証明書(住民票)については、本籍の記載を省略することができる。
【解説】
相続を原因とする登記であるから、当該申請書には、被相続人及び相続人の戸籍等が提供される。
したがって、当該相続人の同一性は、住民票の「氏名」及び「生年月日」の記載と戸籍とを対比することにより確認することが可能であるから、本籍の記載が省略されている住民票であっても(中略)差し支えない。
4. とはいえ、「本籍あり」が好まれる理由
では、なぜ「相続なら本籍入り!」という説が根強いのでしょうか。
それは、「その方が確認が楽だから(ベターだから)」に他なりません。
- 同姓同名・同生年月日のリスク回避:確率は低いですが、世の中には「氏名も生年月日も同じ」という他人が存在する可能性があります。本籍があれば、より確実に本人特定ができます。
- 審査のスムーズさ:登記官(および書類を作成する我々)としても、本籍が載っている方が、戸籍との繋がりを一目で確信できるため、心理的に安心感があります。
つまり、「本籍入りが望ましい(Better)」ではありますが、「本籍入りでなければならない(Must)」ではないのです。
まとめ
- 相続登記の住民票は、「本籍なし」でも受理される。
- 理由は、「氏名+生年月日」で戸籍と照合できるから。
- 「本籍あり」の方が望ましいが、必須ではない。
もし依頼者が「本籍なし」の住民票を取ってきたとしても、慌てて取り直しをお願いする必要はありません。
「これでも大丈夫ですよ」と、プロとして余裕を持って対応しましょう。
登記研究524p167(登記研究747p59)
相続を原因とする所有権の移転登記の申請書には、所有権の登記名義人となる相続人の住所証明書の提供を要する。相続を原因とする登記であるから、当該申請書には、登記原因証明情報の一部として被相続人及び相続人の戸籍等が提供される。したがって、当該相続人の同一性は、住民票の氏名及び生年月日の記載と戸籍とを対比することにより確認することが可能であるから、本籍の記載が省略されている住民票の謄抄本であっても、氏名及び生年月日が戸籍の謄抄本の記載と一致していれば、これをもって相続人の住所証明書として取り扱って差し支えない。
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