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【第5回】銀行の住所変更はやらなくていい?~名変登記の省略という裏ワザ~

全5回でお届けした「嘱託の順序」シリーズ、いよいよ最終回です。 今回は、実務で知っていると「余計な手間と費用を削減できる」重要な知識、「名変登記の省略」について解説します。

第2回で「氏名・住所変更登記(名変登記)は絶対に省略できない(移転登記の前に必須)」と口酸っぱくお伝えしました。 しかし、「ある特定の条件」においては、この原則を無視して名変登記を飛ばすことが許されています。 それが、「抵当権などの抹消」をする場面です。

目次

1. 事例:合併や移転で住所が変わった銀行

用地買収に伴い、抵当権を抹消する場面を想像してください。

  • 現在の登記: 抵当権者 B銀行(住所:10番地)
  • 事実: B銀行は先月、本店を「20番地」に移転した。
  • 業務: 市が土地を買収し、所有権移転と同時に、B銀行の抵当権を抹消したい。

第2回の知識(所有権移転の時)だと、 「登記簿(10番地)と現在(20番地)が違うから、まずはB銀行の住所変更登記が必要ですよね?」 と考えたくなります。 真面目なあなたは正しい。ですが、今回はその作業は不要です。

2. 結論:抹消するなら、住所変更登記は不要!

抵当権などの「所有権以外の権利」を抹消する場合に限り、銀行の住所変更登記を省略して、いきなり抹消登記を嘱託することが可能です。

  • 本来のルート(原則): 住所変更登記 → 抹消登記 (手間が2倍)
  • 省略ルート(特例): いきなり抹消登記 (変更証明書をつけるだけ)

3. 解説:なぜ今回は省略できるのか?

第2回で解説した所有権移転の際は、厳格な同一性が求められました。 しかし、今回の目的は「抵当権を消して、登記簿から消し去ること」です。

法務局としても、 「どうせ消えてなくなる権利の住所を、いまさら厳密に書き換えて何になる? 証明書さえあれば、手続きを簡略化していいよ」 というスタンスなのです(これを「便宜、省略できる」といいます)。

4. 今回の武器(根拠:昭和31年通達)

この「裏ワザ」を使うための根拠通達がこちらです。これを知っているだけで、「詳しいな!」と一目置かれます。

昭和31年9月20日 民甲2202号 民事局長通達 [要旨] 所有権以外の権利の登記の抹消を申請する場合において、登記権利者(※ここでは銀行のこと)の表示が登記簿と符合しないときは、その変更を証する書面を添付すれば、登記名義人の表示変更の登記を省略して、直ちに抹消の登記を申請することができる。

【省略できる3つの条件】 この通達を使うには、以下の3つすべてに当てはまる必要があります。

  1. 「所有権以外」の権利の抹消であること(抵当権、地上権など)。
  2. 「登記義務者(銀行)」に住所移転などの変更が生じていること。
  3. 「変更を証する書面(履歴事項証明書など)」を添付すること。
    • ※現在は、申請書に銀行の「会社法人等番号」を記載すれば、書面の添付すら省略できる場合がほとんどです。

【注意点】 これはあくまで「省略できる」という規定です。丁寧にやりたいなら、原則通り「変更登記→抹消登記」をしても間違いではありません(無駄ですが)。

5. 被相続人の名変について

被相続人の氏名・住所変更があったがその登記がなされていない場合については、下記記事を参照してください。
👉️ 【相続登記】「最後の住所」と「登記簿の住所」が違う! 名変登記は必要? 同一性証明の完全ガイド

6. シリーズまとめ

全5回にわたり、「登記嘱託の順序」について解説してきました。 最後に、このシリーズで伝えたかった「新人担当者が持つべき羅針盤」をまとめます。

  1. 原則は「時系列」だが、「連続性」も考えよ。 (契約日よりも、登記簿上のつながりを重視せよ)
  2. 所有者(売主)の住所変更は絶対に飛ばせない。 (まずは「名変」で本人確認を完了させる)
  3. 「誰が登記できるか」は法律が決めている。 (真の所有者でも、相続登記しないと部外者扱い)
  4. 消える権利(抵当権)の手続きは簡略化できる。 (無駄な名変登記は昭和31年通達でカット)

登記業務は「形式」の世界です。一見融通が利かないように見えますが、その背景には「正確な権利関係を公示する」という強い目的と、それを支える先人たちのルール(通達・先例)があります。

困ったときは、法務局に相談しつつ、このブログの条文や通達を読み返してみてください。根拠を知っていれば、自信を持って業務を進められるはずです。

それでは、また次の記事でお会いしましょう!

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