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【連載第2回】用地担当者を悩ませる「形式」と「実態」のギャップ

※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。

目次

〜その土地は「お役所」のものか、「みんな」のものか?〜

用地担当のみなさん、こんにちは。

前回は、沖縄の登記簿に「財産区」や「字」という名称が存在する歴史的な背景(戦後の混乱と昭和56年の解決策)について解説しました。

今回は、いよいよ実務の現場で皆さんが直面する「最大の悩みどころ(判断の分かれ道)」について整理します。

【30秒で復習】なぜ変な名義があるの?

前回の記事でお話しした通り、沖縄の登記簿にある不思議な名義には、それぞれ理由があります。

  • 「字(あざ)」名義: 戦後の混乱期に、実態に合わせてそのまま記録されたもの(戦後の証)。
  • 「財産区」名義: 昭和50年代に、個人名義を解消するために便宜的に使われたもの(苦肉の策)。

これらを踏まえた上で、「じゃあ、今の用地買収でどう扱えばいいの?」という実践的な分類に入っていきましょう。

1. 登記簿上の「名義」と「実体」の整理

用地買収の現場では、登記名義がどうであれ、その「中身(実体)」が何なのかを見極める必要があります。

一般的に、こうした「旧村有財産」と呼ばれる土地は、その管理実態や法的性質によって以下の4つに分類されます。

旧村有財産の4分類

分類概要判定
カテゴリー①
本来の行政財産
最初から役場、学校、道路敷地として使われていたもの。市町村有
(問題なし)
カテゴリー②
財産区有財産
地方自治法上の「財産区」が設立され、管理しているもの。
※旧財産区であれば「大字名義」で登記可能(登記研究337号)。
該当なし
(沖縄にはない前提)
カテゴリー③
一般承継財産
(行政財産的)
法的には市町村の財産だが、実態として自治会が使っているもの。
※ポツダム政令等により市町村へ帰属したとされるもの。
市町村有
(補償金は市へ)
カテゴリー④
民間共有財産
(権利能力なき社団)
登記名義に関わらず、実態は自治会の「総有(みんなのもの)」として管理されているもの。
※ポツダム政令の対象外(登記研究192号参照)。
民間有
(補償金は自治会へ)

2. 担当者が直面する「③か④か」の選択

カテゴリー①なら問題ありません。カテゴリー②も本ブログでは沖縄にはないとの前提に立つので除外します。

用地担当者が一番頭を悩ませるのは、目の前の土地が「カテゴリー③(行政のもの)」なのか「カテゴリー④(民間のもの)」なのか、という判断です。

  • もし「カテゴリー③」と判断すると……登記手続きは楽かもしれません(市名義で直接保存登記が可能)。しかし、土地は「市のもの」となるため、買収代金は市の歳入に入ります。これでは「先祖伝来の土地だから、お金はムラ(自治会)に入れてほしい」という地元の要望に応えられず、交渉が決裂する恐れがあります。
  • もし「カテゴリー④」と判断すると……買収代金は自治会に入りますが、登記名義を「財産区」や「字」から「自治会(認可地縁団体)」へ修正しなければなりません。その登記手続きは難易度が高いです。

本ブログのスタンス(戦術的判断)

本ブログでは、スムーズな用地取得と地域への還元の両立を目指し、以下のスタンスを採用します。

本ブログの前提:

沖縄の字有財産(登記簿上「財産区」や「字」となっているもの)は、「カテゴリー④(民間の権利能力なき社団)」であると捉え、その証明を積み上げていく。

つまり、「表札(登記名義)は行政っぽいが、家の中(実体)は民間である」と捉えることで、解決の糸口を探るのです。

3. 実務Q&A ~よくある名義の処理~

ここでは、現場でよく遭遇する実務的な疑問にお答えします。

Q1. 字有地が「個人名義」になっている場合は?

A. それは「代表者」の名義である可能性が高いです。

字(自治会)が権利能力なき社団である場合、土地を「代表者個人の名義(または共有)」で登記することは一般的です 。

この場合、実質的な所有者は字(自治会)ですから、以下のような処理を検討します。

  • 認可地縁団体化している場合: 「委任の終了」等を原因として、個人から認可地縁団体へ所有権移転登記を行う 。
  • 認可地縁団体化していない場合: まずは認可地縁団体(法人)を設立することを推奨する。

Q2. すでに「認可地縁団体」になっている場合は?

A. それが最も望ましい姿(ゴール)です。

自治会が「認可地縁団体」となれば、法人として登記が可能です 。

用地担当者としてのミッションは、「登記簿上の幽霊(字・財産区)」から、この「生きた法人(認可地縁団体)」へ、いかに安全かつ確実に権利のバトンを渡させるか、という点にあります。

次回予告

さて、前提条件(「実態は民間である」という認定)が整いました。 しかし、ゴールは決まっても、スタート地点は土地によって異なります。

  • パターンA: 権利の扉がまだ開いていない(表題部のみ)
  • パターンB: 誤った名義で権利の扉が閉ざされている(権利部あり)

同じ「字有地」でも、このどちらであるかによって、使うべき法律の武器が全く異なるのです。

次回は、あなたの担当する土地がどの攻略ルートになるのかを判定する「運命のフローチャート」を解説します。

参考資料

ポツダム政令による帰属(登記研究192号 71頁)

(答)(前略)昭和22年政令15号2条の規定により相当の処分をし、その態様に従って登記を受けるべきであり、当該土地が台帳の開設された当時の部落の共有である場合には、土地台帳の所有者を訂正し共有者名義に所権保存登記を受けるべきものと考えます。

※ポツダム政令により市町村に帰属したもの(カテゴリー③)と、部落の共有のまま残ったもの(カテゴリー④)の分岐点が示唆されている。

ポツダム政令(昭和22年政令第15号)に基づき、土地の所有権が市町村に帰属してしまう流れは以下の通りです。

  1. 町内会・部落会等の解散と財産処分の義務 昭和22年(1947年)5月3日、ポツダム政令(政令第15号)が施行され、戦時中に組織された町内会や部落会等は解散させられました 。この際、これらの団体が所有していた財産は、構成員の多数決等により遅滞なく処分しなければならないと定められました 。
  2. 処分期限(2ヶ月間)の経過 この財産処分には期限が設けられており、政令施行から2ヶ月以内に行う必要がありました 。
  3. 市町村への自動的な帰属 もし、この2ヶ月の期間内に処分されなかった財産は、期間満了の日(昭和22年7月3日)をもって、その区域が属する市町村に帰属するものとされました 。

つまり、「解散命令が出たが、期限内に自分たちで処分(売却や分配など)をしなかった土地は、自動的に行政(市町村)のものになる」という仕組みです。

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