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【連載第3回】【診断】あなたの土地はどっち? 攻略ルートの分岐点

※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。

目次

〜どちらもイバラの道?!〜

用地担当のみなさん、こんにちは。

前回までは、沖縄の「字有財産」を取り巻く複雑な背景(歴史的経緯と実態の定義)についてお話ししました。

ここからは、いよいよ解決に向けた「具体的な戦術」の話に入ります。

しかし、やる気満々でいきなり登記申請書を書き始めてはいけません。

なぜなら、対象となる土地の「現在の登記状態」によって、選ぶべき武器(登記の種類)が全く異なり、進むべきルートが180度変わってしまうからです。

今回は、お手元の登記簿(全部事項証明書)を見ながら、あなたの担当する土地がどの攻略ルートになるのかを診断していきましょう。

1. 運命の分かれ道「権利部(甲区)」を見よ!

登記簿には、土地の物理的状況(所在・地積など)を書いた「表題部」と、所有権などの権利関係を書いた「権利部」があります。

今回、皆さんが血眼になって確認すべきは、「権利部(甲区)」に記載があるかどうかです。

これで、あなたの土地は大きく2つのパターンに分かれます。

パターンA:表題部のみ(権利部なし)

  • 見た目:
    • 上段の「表題部」の所有者欄に「字〇〇」や「〇〇財産区」と書いてある。
    • 下段の「権利部(甲区)」には「余白」や「登記記録なし」と書いてある(あるいは甲区そのものがない)。
  • 状態:
    • まだ「所有権保存登記(最初の権利登録)」がされていません。
    • いわば、「権利の扉がまだ開いていない(鍵がかかっていない)」状態です。

パターンB:権利部(保存登記)がある

  • 見た目:
    • 下段の「権利部(甲区)」の順位番号1番に、「所有権保存」と書かれており、権利者として「〇〇財産区」や「字〇〇」等の名前が入っている。
  • 状態:
    • すでに誤った(あるいは便宜上の)名義で、権利が確定してしまっています。
    • いわば、「間違った表札で、一度閉じてしまった扉」です。これをこじ開ける必要があります。

2. 【重要コラム】なぜ「権利部」があるだけで扱いが変わるのか?

ここで、鋭い方は一つの疑問を持つかもしれません。

「第1回では『沖縄に財産区はない』と言いましたよね? なのに、なぜパターンB(権利部あり)だけ、市長が出てきて『財産区扱い』をするんですか? 矛盾していませんか?」

実は、これこそが登記実務の「形式的確定力」の恐ろしさなのです。

  • パターンA(表題部のみ)の時:表題部は単なる「物理的現況」の報告に過ぎません。権利関係はまだ確定していないため、私たちは「実体(真実)」である「民間(自然村)」を主張し、行政の介入(ポツダム政令)を拒否することができます。
  • パターンB(権利部あり)の時:しかし、一度「保存登記」が入ってしまうと、たとえそれが間違いであっても、強力な「形式(法的な衣)」をまとってしまいます。登記簿に「財産区」や「字」と書かれた瞬間、形式上は行政管理下の財産として固定されてしまうのです。

したがって、私たちは次のように戦術を使い分けます。

  • Aなら: 形式がないので、「実体(民間)」を貫き通す。
  • Bなら: 形式が強いので、あえて「形式(財産区)」を利用して動かす。

この「柔道のような力の利用」こそが、攻略のカギとなります。

3. 【診断】攻略ルートの決定

それでは、それぞれのパターンごとの「基本戦略」を見ていきましょう。

パターンA(表題部のみ)の場合

⇒ 攻略ルート:「表題部所有者の更正」

まだ保存登記がされていないので、比較的柔軟な対応が可能です。

現在書いてある「字」や「財産区」の名義人は、法的に存在しない(または登記できない)ため、そのままでは保存登記の申請人になれません。

  1. ミッション: 保存登記を入れる前に、表題部の名義を「登記できる人(代表者個人など)」に書き換える(更正する)。
  2. 最大の敵:「ポツダム政令」
    • 「字名義ということは、戦時中の町内会(行政組織)じゃないの? ならポツダム政令で没収されて市の土地でしょ?」というツッコミを回避する必要があります。
  3. 詳細解説: 今後の連載(第7回〜第9回)で詳しく解説します。

パターンB(権利部あり)の場合

⇒ 攻略ルート:「真正な登記名義の回復」

すでに保存登記が入っていますが、沖縄には旧財産区が存在しないため、権利部の「字〇〇」や「〇〇財産区」という名義は、厳密には「存在しない団体の名義(=無効な登記)」である可能性が高いです。

  • 本来の筋道(抹消ルート):
    • 無効な登記なので「錯誤」で抹消し、パターンA(表題部のみ)に戻してからやり直すのが理論的には正解です。
    • しかし、「抹消」は手続きが煩雑であり、一度登記を消すことへの抵抗感も強いため、実務ではあまり選ばれません。
  • 本連載の推奨(移転ルート):
    • そこで、あえて抹消せず、「形式上、権利部がある」ことを利用し、「真正な登記名義の回復」という奥の手を使って、直接「認可地縁団体(自治会)」へ権利を移転させる方法をとります(注2)。
  1. ミッション: 権利を「財産区(市長管理)」から「認可地縁団体(自治会)」へ直接移転させる。
  2. 最大の敵:「同一性の壁」
    • 「更正登記(修正)」で直せないのか? → 「別人への書き換え」になるためNGです。ここを突破するのが「回復」登記です。
  3. 詳細解説: 今後の連載(第4回〜第6回)で詳しく解説します。

4. 攻略フローチャート

ここまでの内容を一枚の図にまとめました。

実務で迷ったときは、この図に戻ってきてください。

次回予告

ご自身の担当する土地がどちらのパターンか、判別できましたか?

次回からは、「パターンB(権利部あり)」の攻略法から深掘りしていきます。

「間違っている登記なら、更正(修正)すればいいじゃないか」

「なぜ『更正』ではなく『移転(回復)』なんて面倒なことをするの?」

次回は、法務局の登記官が立ちはだかる「同一性の壁」について、登記法の原則から解説します。

参考資料

1. 保存登記の申請人適格(なぜパターンAはそのまま登記できないのか?)

不動産登記法 第74条

所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。

一 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人

(以下略)

※この条文により、実在しない「財産区」や、権利能力なき社団である「字」のままでは、保存登記の申請が却下されます。

2. パターンB(字名義)の抹消と移転の考え方

『変則型登記、権利能力なき社団・認可地縁団体等に関する登記手続と法律実務』P362-363

「当該土地が登記当時の部落民の共有である場合には、当該大字の所属する市町村長の嘱託により保存登記を抹消した上で、土地台帳の所有者の氏名を訂正すべきである」

一方で、

「真正なる登記名義の回復を登記原因として、A自治会の代表者個人を権利者とする所有権移転登記を甲町長から嘱託するという方法も考えられます」

とされており、本連載では後者の「移転ルート」を採用します。

3. 真正な登記名義の回復の要件

『登記研究』710号 P195~196参照

登記名義人と真実の所有者が異なり、かつ「更正登記」や「抹消登記」による是正が困難な場合(利害関係人がいる、または抹消すると権利関係が混乱する場合など)に、例外的に認められる「移転登記」の手法です

4.ポツダム政令(昭和22年政令第15号)に基づき、土地の所有権が市町村に帰属してしまう流れは以下の通りです。

  1. 町内会・部落会等の解散と財産処分の義務 昭和22年(1947年)5月3日、ポツダム政令(政令第15号)が施行され、戦時中に組織された町内会や部落会等は解散させられました 。この際、これらの団体が所有していた財産は、構成員の多数決等により遅滞なく処分しなければならないと定められました 。
  2. 処分期限(2ヶ月間)の経過 この財産処分には期限が設けられており、政令施行から2ヶ月以内に行う必要がありました 。
  3. 市町村への自動的な帰属 もし、この2ヶ月の期間内に処分されなかった財産は、期間満了の日(昭和22年7月3日)をもって、その区域が属する市町村に帰属するものとされました 。

つまり、「解散命令が出たが、期限内に自分たちで処分(売却や分配など)をしなかった土地は、自動的に行政(市町村)のものになる」という仕組みです。

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