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【連載第4回】「更正登記」は万能か? 立ちはだかる「同一性」の壁

※本記事の内容は、実務経験に基づく筆者の私案です。法務局の公式見解や確定判例ではありませんので、実務への適用にあたっては、必ず管轄の登記官や専門家と協議の上で行ってください。

目次

〜なぜ「名前の書き換え」では済まないのか? 登記法の原則論〜

用地担当のみなさん、こんにちは。

前回は、攻略ルートを診断する「運命のフローチャート」を解説しました。

今回からは、いよいよ難関ルートである「パターンB:すでに権利部(保存登記)が入っている場合」の攻略法を深掘りしていきます。

まず、多くの担当者が最初に思いつく「直感的な解決策」があります。

「実態が民間(自治会)なのに、登記簿が『〇〇財産区』や『字〇〇』になっている。それなら、間違っている名前を正しい名前に書き換えれば(更正登記すれば)いいじゃないか」と。

しかし、いざ法務局に相談に行くと、私たちは不動産登記法の「原理原則」という高い壁に直面し、門前払いを食らうことになります。

今回は、なぜこの「単純な書き換え」が許されないのか、その法的ロジックを解説します。

1. 原則は「抹消」、例外が「更正」

まず、登記の基本ルールをおさらいしましょう。

「登記されている内容」と「真実」が最初から食い違っている場合、その直し方には2つのルートがあります。

  1. 抹消登記(原則):
    • 間違った登記を消して、無効にする(なかったことにする)。
  2. 更正登記(例外):
    • 間違った部分だけを修正して、登記を維持する。

法律上の「是正」のルール

実務家向けの専門書には、次のように解説されています。

「誤った登記を実体関係と一致させるための原則的な発想は、誤ってされている登記の全部を法律的に消滅させ、改めて正しい内容の登記をやり直す処理となる。したがって、是正登記の登記の種類は、原則として『抹消登記』と判断すべきことになる」

つまり、法務局の登記官からすれば、「間違いなら、まずは消してください(抹消)。書き換え(更正)で済ませたいなら、それなりの条件が必要です」というのがスタートラインなのです。

2. 更正登記が許される「狭き門」

では、どんな時に例外としての「更正登記(書き換え)」が許されるのでしょうか?

要件は以下の通りです。

「①登記と実体とが原始的に不一致であり、②更正前後で登記の同一性が認められる場合には、誤った個所のみを一部訂正するための『更正登記』が認められている」

ここで最重要キーワードが登場しました。「登記の同一性」です。

これは、「誤字脱字の修正」や「住所の変更」レベルなら認めるが、「別人への入れ替え」までは認めない、という厳格なルールです。

沖縄のケース(財産区・字)に当てはめると?

私たちの目の前にあるのは、権利部に「〇〇財産区」や「字〇〇」と書かれた土地です。これを「〇〇自治会(認可地縁団体)」に直したい。

  • 我々の主張:「沖縄にはそもそも財産区が存在しなかった。便宜上『財産区』や『字』という名前で登記されただけで、中身はずっと『自治会』だった。だから実質的には同一なんです!」
  • 法務局の審査基準(同一性の壁):「お気持ちは分かりますが、形式上、以下の理由で『別人への書き換え』に見えます。」
    • 財産区の場合: 公法人(行政)から私法人(民間)への変更となるため、別人。
    • 字の場合: 権利能力なき社団(または旧財産区)から認可地縁団体(法人)への変更は、人格が異なるため、別人。

「したがって、同一性が認められないため、更正登記はできません」

このロジックにより、「名前の修正」というルートは閉ざされてしまいます。

3. 「抹消」を選んだ時の地獄

「更正(書き換え)がダメなら、原則通り抹消(削除)してください」と言われたら、どうなるでしょうか?

もし、現在の「所有権保存登記」を抹消してしまうと、登記記録上の権利は白紙に戻ります(注1)。

多くの場合、それは「共有者名義」や「表題部の字名義」に逆戻りすることを意味します。

そこから現代の自治会まで権利をつなげ直すには、何十年分もの経緯を証明し、場合によっては何百人もの相続人調査が必要になります。

つまり、「抹消ルート」を選んだ瞬間、実務的には解決不可能な「迷宮(地獄)」入りが確定するのです。

4. 第三のルート「真正な登記名義の回復」

「更正」は同一性の壁で弾かれる。

「抹消」は地獄への入り口。

この八方塞がりの状況(パターンB)を打開するために、実務家たちが用いるのが、「真正な登記名義の回復」という手法です。

これは、「更正登記(修正)」の要件を満たせない場合に、形式的には「移転登記(権利の移動)」の箱を使って、実質的な修正を行うという実務上の奥の手です。

  • 更正登記: 「A」を「A’」に直す(同一性が必要)。
  • 真正な登記名義の回復: 「A」から「B」へ権利を移す(同一性は不要)。

次回は、この「真正な登記名義の回復」を使って、どのように「財産区・字」から「自治会」へ権利を移転させるのか、その具体的なロジックと手続きを解説します。

参考資料

1. 保存登記抹消後のリスク

昭59.2.25 民三1085通(要約)

(前略)抹消対象となる所有権保存登記が……(中略)……表題部所有者からの取得者名義の登記である場合には、職権で「表題部所有者の回復登記」がなされ、登記記録は閉鎖されません。

※つまり、抹消すると「過去の表題部所有者(字や共有者)」の状態に復活してしまい、問題が解決するどころか複雑化するリスクがあります。

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