毎日お疲れ様です!
用地課で相続登記の嘱託書を作っていると、前任者のデータを見て不思議に思うことはありませんか?
「あれ? 1/4って書けばいいのに、なんでわざわざ 3/12 って書いてあるの?」
「約分(やくぶん)した方が算数的には正しいんじゃないの?」
今回は、そんな素朴な「相続分の分母(分数)の記載」について。
「計算のしやすさ」と「書類の正確性」をどう両立させるか、ズバリ解説します。
先に結論
実務では、以下の2つのルールのバランスで判断していると思われます。
- 基本ルール:法律上、分母を揃える(通分する)義務はない。
- 実務の鉄則:計算ミス防止のために「通分」しても良いが、「登記原因証明情報(遺産分割協議書など)」の記載を正確に反映させることが最優先。
迷ったら、「証明書に書いてある通りに書く(転記する)」のが一番安全です。
なぜそうなるのか、根拠を見ていきましょう。
1. 根拠:法律・登記研究・法務局HP記載例
まず、用地担当者として「根拠は?」と聞かれたら、ここを押さえておきましょう。
【条文】不動産登記法 第59条(権利に関する登記の登記事項)
登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所並びに登記名義人が二人以上であるときは当該権利の登記名義人ごとの持分
条文は単に「持分(を書け)」としか言っていません。「分母を揃えた持分」とは書いていないです。
登記研究433号
他の共有者の持分と「分母」を揃えられる場合は、分母を統一する表記が「好ましい」とされています。(ただし、分母が揃わなくても間違いではありません)(注1)
法務局のWebサイトにある記載例
法務局Webサイトにある申請書の記載例は、分母を揃えていません。(注2)


2. なぜ実務では「あえて分母を揃える」のか?
では、なぜ先輩たちはわざわざ分母をそろえることを(3/6 など)していたのでしょうか?
理由は「検算のしやすさ」です。
- 1/2 + 1/6 + 1/3 …パッと見で合計が「1」になるかわかりにくい。
- 3/6 + 1/6 + 2/6 …これなら一瞬で「合計6/6=1だ!」とわかります。
決裁する上司や、審査する法務局の登記官が「計算ミスがないか」を一瞬で判断できるようにするための、実務上の「気遣い(マナー)」だったのです。
3. 【最重要】「登記原因証明情報」との整合性
しかし! ここで絶対に忘れてはいけないことがあります。
「嘱託書の内容は、登記原因証明情報と一致しているほうがチェックしやすい」
登記官は、「嘱託書」と「証明書」を見比べて、内容が合っているかを審査します。
ここで余計な気を利かせて計算し直すと、逆にリスクになることがあります。
失敗例:良かれと思って計算したが…
- 遺産分割協議書: 「長男は 3分の1 を取得する」と記載。
- あなたの嘱託書: 全体の分母に合わせて「長男持分 6分の2」と記載。
- 結果:
- 数学的には合っています。
- しかし、転記ミスや計算ミス(例:誤って6分の3と書いてしまう)のリスクが発生します。
- 登記官が一瞬「ん?書類と数字が違うぞ?」と確認する手間が発生します。
4. 結局、どう書き分ければいい?(判断フロー)
明日からは、この基準で判断してください。
パターンA:遺産分割協議書がある場合
👉 「書かれている通り」に書く(約分・通分しない)
協議書に「Aは2分の1、Bは4分の1」と書いてあるなら、そのまま転記してください。
「書いてある通りに入力しました」というのが、公務員として最も説明責任を果たせる安全な方法です。勝手に通分して計算ミスをするのが一番怖いです。
パターンB:法定相続分で登記する場合(証明書に分数が書いていない)
👉 「通分(分母を揃える)」した方が親切
戸籍だけを見て、こちらで法定相続分を計算する場合は、もともと計算が必要です。
それなら、最初から分母を揃えて(例:母2/4、子1/4、子1/4)作成しましょう。
上司も検算しやすく、法務局も「計算過程が明確だ」と安心してくれます。
まとめ
登記実務は「正確さ」が命です。
- 原則は「証明書(遺産分割協議書)」の完全コピー。
- 自分で計算が必要な時だけ、検算しやすいように「分母を揃える」。
この使い分けができれば、もう迷うことはありません。
(注1)登記研究433号
【6373】 持分の分母の表示について
〔要旨〕 持分の分母の表示については、他の共有者の持分等により適宜定められる。
問 甲はAに47/130、BC(各1/2宛)に53/130を、Cに30/130を移転申請しますが、1件目A、2件目BCの場合B 53/260、C 53/260の持分表示でよいと思いますが、仮に A 40/130、BC 50/130、C 40/130の場合BCについては B 25/130、C 25/130とするか、または B 50/260、C 50/260の何れを表示しますか御尋ねします。
答 前段は御意見のとおり、後段は前者の表示が好ましいと考えます(後者でも差し支えない)。(登研雄)
解説の詳細
この質疑では、以下の2つのケースを比較して、どちらが適切かを論じています。
1. 分子が奇数で割り切れない場合(前段の例)
- 状況: 53/130の持分をBとCで半分ずつ(各 1/2)分ける場合。
- 計算: 53/130×1/2 = 53/260
- 判定: 53は2で割り切れないため、分母を260にするしかありません。
- 結果:B 53/260、C 53/260という表記になります(これは他に選択肢がないため、当然その通りとなります)。
2. 分子が偶数で割り切れる場合(後段の質問の核心)
- 状況: 全体を持分130として、そのうち 50/130をBとCで半分ずつ分ける場合。
- 計算: 50/130} ×1/2 = 50/260 ですが、約分すると 25/130 になります。
- 質問: 「B 25/130、C 25/130」とするか、あえて計算そのままで「B 50/260、C 50/260」とするか?
- 回答:
- 好ましい表記: 「B 25/130、C 25/130」
- 理由: 他の共有者(AやCの別持分)が「130分の〜」という表記であるため、分母を「130」に揃えたほうが権利関係全体が把握しやすいためです。
- 補足: ただし、「50/260」という表記でも登記が却下されるわけではなく、「差し支えない(間違いではない)」とされています。
(注2)【深堀り】なぜ法務局の記載例は「約分」しているのか?
勉強熱心な方なら疑問に思うかもしれません。 「法務局のWebサイトにある記載例は、法定相続でも約分(1/2など)しているじゃないか!」 「法務局の記載例に従って約分をすべきだ!」と。
なぜ法務局HPは「分母をそろえて記載」していないのか?
これは、法務局の記載例が「一般市民(本人申請)」をターゲットにしているからだと推測されます。
もし、記載例があえて「2/4」となっていたらどうなるでしょう? 一般の方から、
- 「学校では1/2と習いましたが、2/4と書かないと却下されますか?」
- 「私のケースは1/3ですが、わざわざ3/9に直さないといけませんか?」 といった問い合わせが殺到してしまいます。
そうした混乱を避けるため、法務局の公的な記載例では、算数として最も自然な「既約分数(約分された形)」を採用していると思われます。
そこは真似しなくていいのでは
しかし、私たち用地担当者は業務として嘱託を行います。 相続人が10人、20人と増える複雑な嘱託登記において、一般向けの「分かりやすさ」を優先する必要はありません。 むしろ、「誰が見ても計算ミスがないと分かる(分母が揃っている)」仕様の記述の方が、法務局側としても審査が楽で助かるのではないでしょうか。
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