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「市が引き取らないなら国へ」は通用する?相続土地国庫帰属制度、住民の誤解を解くための実務トーク集

用地買収の現場に出ていると、地権者から「この土地、もう要らないから国や市にあげたいんだけど」と相談されること、増えていませんか?

令和5年から始まった「相続土地国庫帰属制度」。

これ、管轄は法務局ですが、住民にとっては「お役所」の区別はありません。 窓口に来た住民に「ウチじゃないんで法務局へどうぞ」と門前払いしては、その後の用地交渉に響くこともあります。

今回は、用地担当者が「自信を持って案内できる」かつ「法務局からの照会に慌てない」ためのポイントを、根拠法令と共に整理しました。

目次

はじめに:現場の悩み「市役所で引き取ってよ!」

住民の方から「相続したけど使わない山林がある。管理も大変だし、タダでいいから市でもらってくれないか?」と言われた経験、あると思います。

これまでは「公用(道路や公園など)の予定がない土地の寄附は受けられません」とお断りするのが基本だったと思います(地方自治法上の財産管理の観点)。

そこで登場したのが、国が土地を引き取る「相続土地国庫帰属制度」です。

しかし、この制度は「どんな土地でも引き取る」わけではありません。ここを誤解している地権者が非常に多いため、皆さんが最初の交通整理役となる場面が多いのです。

結論:用地担当者としての「正解」

  1. 窓口対応: 申請窓口は「法務局」です。市町村役場ではありません。
  2. 対象判断: 更地でない土地や、境界不明の土地はNGです。「判断」はせず「要件」を伝えてください。
  3. 費用: 「タダ」ではありません。審査手数料と負担金(20万円〜)がかかります。
  4. 実務への影響: 審査過程で、法務局から自治体へ「情報照会」「寄附受けの打診」が来ることがあります。

解説と根拠:実務で使える「武器(条文)」

地権者への説明や、上司への報告に使える法的根拠を整理しました。

根拠法は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、相続土地国庫帰属法)」です。

1.誰が申請できるのか?(売買で買った土地はダメ)

まずは入り口の議論です。「自分で買った土地」は対象外です。

【根拠条文:相続土地国庫帰属法 第2条第1項】(承認の申請権者)

(要約)相続または遺贈(相続人に対するものに限る)により土地の所有権を取得した者は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる。

実務ポイント:

「相続で困っている人」を救済する制度です。売買や生前贈与で自ら進んで取得した土地は、自己責任となるため対象外です。共有地の場合は、共有者の中に一人でも「相続取得者」がいれば、全員で申請可能です。

2.どんな土地なら引き取ってもらえるのか?(却下・不承認要件)

ここが最大の難関です。「国が管理できないような土地」は徹底して弾かれます。

【根拠条文:相続土地国庫帰属法 第2条第3項、第5条】(承認の要件)

(要約)法務大臣は、以下のいずれかに該当する土地については承認をすることができない。

  • 建物がある土地(更地にする必要あり)
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 通路、墓地、境内地、水道用地、用悪水路、ため池として使用されている土地
  • 境界が明らかでない土地
  • 危険な崖があり、管理に過大な費用がかかる土地
  • 工作物、車両、樹木などが放置され、管理を阻害する土地

実務ポイント:

地権者には「更地渡しが基本」「境界確定が必要」「崖地や管理困難な土地はNG」とはっきり伝えましょう。「いらない土地だから返す」のではなく、「きれいな状態にして初めて審査してもらえる」という認識が必要です。

3.お金はいくらかかるのか?(負担金の法的性質)

「国にあげるのだから、そっちが払ってよ」という地権者もいますが、法律で負担が義務付けられています。

【根拠条文:相続土地国庫帰属法 第10条】(負担金の納付)

(要約)承認を受けた者は、政令で定めるところにより、土地の管理に要する10年分の標準的な費用の額に相当する額の負担金を納付しなければならない。

実務ポイント:

  • 審査手数料: 1筆14,000円(申請時。戻ってきません)。
  • 負担金: 原則1筆20万円。ただし、市街化区域の宅地や広い農地・山林は面積計算で高額になります。

4.自治体への「照会」とは?(第12条の運用)

これが皆さんのデスクに直接関係する部分です。

【根拠条文:相続土地国庫帰属法 第7条】(情報の提供要求等)

(要約)法務大臣は、審査のために必要があると認めるときは、関係地方公共団体の長その他の者に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。

実務ポイント:

法務局から用地課や資産税課に対し、以下のような照会が来ることがあります。

  • 「この土地は農用地区域に入っていますか?」
  • 「この土地の管理状況(不法投棄など)について情報を持っていますか?」
  • 「(申請者の同意がある場合)この土地、市の方で寄附を受けて有効活用する意向はありますか?」

特に最後の「寄附受けの打診」は重要です。もし地域計画で将来的に公園や防災空地として使える土地であれば、国庫帰属(有料)ではなく、市への寄附(無料)に誘導できるチャンスかもしれません。

現場での注意点:ここだけは気をつけて!

1.「引き取れます」と断言しないこと

我々はあくまで案内役です。最終的な承認権者は法務大臣(実務は法務局)です。

「この程度なら大丈夫ですよ」と安請け合いして、後で法務局に却下された場合、「役場の〇〇さんがいいと言った!」とトラブルになります。

必ず「最終判断は法務局になりますので、法務局の相談予約をご利用ください」と案内してください。

2.固定資産税の課税タイミング

承認されても、登記が完了するまでは所有権は移転しません。

また、負担金を納付した時点で国庫に帰属しますが、固定資産税は「1月1日時点の所有者」に課税されます。

「今年中に申請すれば来年の税金はゼロ」とは限りません。 スケジュールには余裕を持つよう伝えてください。

よくある質問(FAQ)〜地権者対応用トークスクリプト〜

地権者との会話でそのまま使える回答例です。

Q. 自治体への寄附と何が違うの?

A. 自治体への寄附は、その土地が「公的に使える(道路や広場など)」場合に限って受け入れています。国庫帰属制度は、利用目的がなくても要件さえ満たせば国が引き取りますが、代わりに審査手数料と負担金(20万円〜)をご自身で負担いただく必要があります。

Q. 畑や山林でも大丈夫?

A. 申請可能です。ただし、農地転用の手続きは不要ですが、現状で管理されていない荒廃農地や、境界がわからない山林は引き取ってもらえない可能性があります。

Q. 申請書、ここで書いていい?手伝ってよ。

A. 申し訳ありませんが、申請書の作成代行ができるのは法律で弁護士、司法書士、行政書士に限られています。ご自身での作成が難しい場合は、お近くの専門家をご紹介します(または法務局へご相談ください)。

まとめ:用地担当者の「次の一手」

相続土地国庫帰属制度は、一見「法務局の話」に見えますが、地域住民の土地問題解決の大きな選択肢の一つです。

この制度を正しく理解していれば、「市では引き取れませんが、国へ返すこの制度なら検討できるかもしれません(ただし費用と条件があります)」と、建設的な提案ができます。

地権者の悩みに寄り添いつつ、法的根拠を持って適切にナビゲートできる職員は、住民からも庁内からも信頼されるでしょう。

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