はじめに:過半数すら集まらない時はどうする?
前回(第1回)の記事では、「砂利道の舗装などの『軽微変更』なら、全員同意は不要。過半数でOK」というお話をしました。
しかし、実務の現場からはこんな声が聞こえてきそうです。
「その過半数を集めるのが大変なんですよ……」
- 「AさんとBさんは賛成だけど、合計しても持分が足りない」
- 「Cさんは反対しているし、DさんとEさんに手紙を送っても完全に無視されている」
これまでの実務なら、ここで手詰まりでした。
しかし、今回の連載のテーマである改正民法(令和5年4月1日施行)は、こうした「身動きが取れない共有地」を解消するために作られた法律です。
第2回は、「返事をしない共有者」がいる場合に、無理やり過半数を成立させる法的テクニックを解説します。
1. 今回の解決事例(モデルケース)
まずは状況を整理しましょう。
【事例】共有私道の舗装工事
- 共有者:A、B、C、D、Eの5人(持分は各5分の1)
- 現状:
- A・B(計2/5):賛成
- C(1/5):反対
- D・E(計2/5):催告したが無視・無回答(賛否不明)
AとBだけでは「2/5」しかなく、過半数(2.5/5以上)に届きません。Cが反対しているため、DかEの協力が必要ですが、彼らは無視を決め込んでいます。
2. 解決へのステップ:反対・無視を突破する「2段構え」
この事例を解決するためのポイントは、以下の2つのステップを組み合わせることです。
ステップ①:「軽微変更」であることを確認する(第1回のおさらい)
まず、今回のアスファルト舗装工事が「軽微変更(形状又は効用の著しい変更を伴わないもの)」にあたることを確認します。
これにより、全員の同意ではなく「過半数の決定」で実施可能になります(民法251条、252条)。
ステップ②:返事をしない共有者(D・E)を分母から除外する!
ここからが今回の本題です。
改正民法では、催告しても賛否を明らかにしない共有者がいる場合、裁判所の決定を得ることで、その人を多数決の分母から除外できるようになりました。
【根拠条文:民法 第252条 第2項 第2号(裁判所による決定)】
裁判所は、共有者が他の共有者に対して……賛否を明らかにすべき旨を催告したにもかかわらず、当該他の共有者が相当の期間内に賛否を明らかにしないときは、……その持分を有する共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができることとする旨の決定をすることができる。
要するに、「返事をしないDさんとEさんは、いないものとして計算しましょう」というお墨付きを裁判所からもらう手続きです。
3. 具体的な計算:これで工事決定!
裁判所の決定が出ると、多数決の計算式が変わります。
- 分母の変更:本来の「A+B+C+D+E(全体)」から、賛否不明のDとEを除外します。→ 新しい分母は 「A、B、C」の3人のみ になります。
- 過半数の判定:残ったメンバー(A、B、C)の持分合計(3/5)の中で、過半数を取ればOKです。
- 賛成者:A・B(合計 2/5)判定対象:A・B・C(合計 3/5)

4. 【資料】実際の申立書を見てみよう
口頭で説明しても、住民の方は「裁判所の手続きなんて難しそう…」と尻込みしてしまいがちです。 そんな時は、実際に裁判所が公開している「説明書」や「申立書のひな形」を見せると、手続きのイメージが湧きやすくなります。
以下は東京地方裁判所の公開資料ですが、説明資料としてご活用ください。
- 手続きの全体像がわかる説明書 「賛否不明共有者の共有物管理の申立てについて」説明書(PDF)
- 申立書の書式例 賛否不明共有者の共有物管理申立書(PDF)
※あくまで東京地裁の書式例です。実際に申し立てる際は、管轄の裁判所にご相談ください。
5. 現場での注意点とアドバイス
この強力な手法を使うにあたり、職員として以下の点に注意してください。
- 「自動的に無視」はできません
「返事がないから無視して進めましょう」と安易にアドバイスしてはいけません。必ず「裁判所への申立て」が必要です。これには費用(数千円~)と手間がかかります。 - あくまで「工事」の話です
この「賛否不明者の除外」手続きは、私道の舗装や修繕などの「管理・変更」行為に使えますが、土地そのものを売却したり自治体に寄付したりする行為には使えません。 - 専門家への誘導を
手続きの申立ては、共有者自身(AさんやBさん)が行う必要があります。書類作成や手続きに不安がある場合は、「近くの弁護士等に『民法252条の申立てをしたい』と相談してみてください」と案内するのがベストです。
第2回まとめ:民法改正を用地行政の「武器」にしよう
全2回にわたり、共有私道問題を解決する改正民法の活用法を解説しました。
- 第1回:砂利道舗装などの「軽微変更」なら、全員同意は不要。過半数でOK。
- 第2回:過半数が集まらない場合でも、無視する人を裁判手続きで除外できる。
これまでは「反対者がいる」「連絡がつかない」というだけで思考停止してしまっていた案件も、この知識があれば解決の糸口が見つかるはずです。
根拠条文を武器に、ぜひ住民の方々の困りごとを解決に導いてあげてください。
※本記事は一般的な解説です。個別の案件については、必ず庁内の法務担当や専門家(弁護士等)にご確認ください。
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